「コンパクトシティ」と「限界集落」

2月に書いた高度に発展した都市に住む人は郊外と山村の区別がつかないという記事に、今日になっていきなりブクマがいくつもついていたので驚いた。
コンパクトシティは限界集落を見捨てない - シートン俗物記で紹介されたのが原因らしい*1が、「高度に発展した都市に住む人は郊外と山村の区別がつかない」を*2自分で読み返してみるとあまり内容がない*3ように思う。というのは、「コンパクトシティ」と「限界集落」を同じ問題圏に属するものだと単純に考える人々の誤謬を誹るばかりで、なぜ両者を対立項として論じてはいけないのかという理由については何も触れていないからだ。この点に興味のある方は上記でも言及した「コンパクトシティの誤用」*4をお読みいただきたい。
さて、コンパクトシティは限界集落を見捨てないには2つの提言がなされている。それぞれについて少し感想を述べておこう。

ですから、木材の輸入全面禁止を提唱しましょう。今すぐ、では混乱を招くでしょう。一定のモラトリアム期間をおいて国内産木材へのシフトさせる。世界の天然森林保護に繋がり、限界集落地に産業と雇用を創出する事になるのです。木材産業の復興は山林を維持し、副次的にバイオマス燃料供給にも繋がります。その山林木材の需要が地域で賄われれば最も効果的です。

経済のグローバリゼーションが進む中で木材の輸入全面禁止を目指して規制をかけていくということになれば、相当激しい摩擦が生じることは間違いない。それを実現するには、禁止の得失を比較して禁止するほうが明らかにメリットが大きいということを示す科学的データか、反対派に有無を言わせない強権、あるいは、それら両方が必要になるだろう。いずれにせよ、山間地が活性化する程度にまで木材の輸入規制を強化するまでにはかなりの年月を要することだろう。
それに対して、いわゆる「限界集落」においては、住民の半分以上が65歳以上であり、ここ数年か十数年のうちに消滅する懸念のある集落も数多い。そして、いったん集落が消滅したなら、その集落に代々伝えられてきた生活文化も消滅してしまうのであり、その後、林業が復活して外部から人が移住したとしても決してもとの集落が復活するわけではない。
木材の輸入規制は森林資源保護や地域経済活性化という観点からみれば有効な策かもしれないが、現に山間地で生きている人々の背負ってきた有形無形の伝統を次世代に継承し、ひいては文化の多様性を保全するという観点からは、場当たり的であっても、より短期的で即効性のある施策が必要ではないかと思われる。「長い目で見れば我々は全て死んでいる(In the long run we are all dead.)」*5のだから。
……ただ、「短期的で即効性のある施策」というものが、全然思い浮かばないことが問題だ。もう、どうしようもないのかもしれない。

木材だけではありません。コンパクトシティ化を進めた場合、かつて農地から宅地へ転換された地域の再農地化も考慮されるべきです。木材と同様に地域内、市街地の後背地から農産物を供給する。この場合もフードマイレージだけの問題ではなく、地域でお金を回すことになるのです。

木材の輸入禁止については、関税を徐々に上げていったり、木材輸入数量枠を徐々に狭めていったりして次第に規制を強めていく、というプロセスを容易に想像することができるが、宅地の再農地化についてはそのような具体的なプロセスが想像しづらい。
考えられる施策としては、たぶん何らかのゾーニングにより住民を追い立てるべき「郊外」と、住民を回帰させるべき「都心」を区分し、前者の住宅や底地の税率を上げ、後者の税率を下げたり補助金を出したりする、というようなものだろう。そうすると、郊外に広がった分譲地から次第に人々が去るが、一部の人はその場に残るので、まだら状の空き地ができることになる。そのような土地では農業に用いにくいから、市場に任せておいたのではなかなか再農地化は進まないのではないか。
行政がより積極的に土地取引に関与して、たとえば郊外から都心に移り住む人から市場価格より高い値で土地と建物を買い取り、建物の撤去と整地、場合によっては土壌改良まで行ってから安価で農家に売り払う、というところまでやれば再農地化がかなり進むだろうと思われる。あるいは、もっと大胆に、土地収用制度を活用して*6郊外の宅地を半強制的に取得するという手もある。
ただ、その場合の「行政」の役割を受け持つのが、国であるべきなのか、それとも地方自治体であるべきなのか、ということは検討課題となる*7だろう。趣旨は全く異なるが、第二次大戦後の農地改革はGHQの指令に基づき、国策として全国的に行われたので、その伝にならえば、宅地の再農地化も国家プロジェクトとして行うほうが適切だと思われる。しかし、一般にコンパクトシティの推進は地方自治体、特に市町村の事務であり、固定資産税や都市計画税も市町村税であるのだから、宅地の再農地化も市町村の判断により進めていくほうがいい*8のではないかとも思われる。いや、そうすると、地域によって施策の推進速度に違いが生じてしまい、同一地域内で郊外から都心へと回帰するのではなくて、別地域へのスライドが生じるおそれもある*9。となると、憲法を改正して都市圏間の転居に制限をかけるとか……。んー、無理っぽい。
いや、家一軒分の空き地ができたら、その空き地だけで行うことができる、そんな小規模な農業を支援していく方法を考えるべきだろうな。集落営農の組織化とか高付加価値型農業とか、そういった方向性で考えるから、土地の強制収容などという変な発想が浮かんでくるのだ。反省。
以上、とりとめもない思いつきを書き並べてみた。批判的なコメントになってしまい申し訳ない。もう少し前向きな提案ができればよかったのだけど……。

*1:もしかしたら原因と結果を勘違いしているという可能性もないではないが、確認しようもないし、その必要もないだろう。

*2:2008/10/01追記:「あまり内容がない」というのは拙文についての自己評価です。「コンパクトシティ限界集落を見捨てない」についての評価ではありません。

*3:そのことは、「中心市街地/郊外」「都市/限界集落」 - 郷愁エントランスのコメント欄でも書いておいた。

*4:これは、その後、自治大学校政策事例教材「人口減少時代の地域活性化」に再録されている。

*5:ずっと前にここで見かけて気に入ったフレーズ。ケインズの言葉だそうだが、原典にあたってはいない。

*6:ただし、現行の土地収用法で予定されている事業の中に再農地化は含まれていないので、法改正が必要となる。

*7:上の木材輸入全面禁止については、検討するまでもなく国に決まっている。なぜなら、地方自治体は国境管理権を持たないのだから。

*8:ただし、ひとつの都市圏がひとつの市町村内で完結する場合ばかりではないので、複数の市町村にまたがる場合は広域連合が事務を行うべきだろう。

*9:実際、大都市圏への人口集中、特に東京一極集中化というのは大きな問題としてクローズアップされつつある。