TPPとGDPとGDPではない何かと

米の生産額は、年間1兆8000億円。GDPの0.36%である。これが全滅したとしても、日本経済には何の影響もない。こんな小さな問題が民主党議員の半数に近い署名を集めるのは、「農村票」の力ではない。農業人口は、兼業農家を入れても3%に満たない。政治家が恐れるのは、農協という戦時体制の亡霊が恫喝しているからなのだ。こういう悪質な圧力団体を撲滅するためにも、TPPは進めるべきである。

環境問題の分析手法の一つに、「受益圏/受苦圏モデル」というものがある。一般的に、地方において大規模な事業や開発、政策が行われる際、その受益圏は幅広く設定され、経済的利益の最大化といった全体の整合性のもとで評価される。しかし、それに伴う公害・環境破壊によって生活被害を受ける受苦圏は、そこに寄り添う地域住民に偏っている。全体性を見る受益圏と身近な問題とみる受苦圏の視点はすれ違っているが、一般に受益圏は多数派で主導的立場を取りやすいため、受苦圏の視点は考慮されにくい。

TPPにも同様な構図が見て取れる。TPPの議論の多くは、GDPのように国全体の利益を尺度として議論されることが多い。しかし、こうした議論は、地域環境が荒廃することによる痛みをほとんど受けることのない人々の間で行われている。そして、農山漁村に住む地域住民がTPPのツケを一方的に引き受けるという構造が生まれかねない。このように、受益圏と受苦圏との間の不利益に公正さを欠くことは、環境倫理学でも大きな問題の一つとされている。