地域猫を殺したら動物愛護法第44条第1項違反か?

あまり時間がないので走り書き。
先日、こんな記事を見かけた。

山形市霞城公園で昨年秋以降、元気だったネコが突然姿を消す「事件」が相次いでいる。いずれも住民らが名前を付けて世話をしていた「地域ネコ」。ねぐら用に発泡スチロール箱で作った「ネコハウス」が壊される被害も続発し、関係者はネコたちの身を案じつつ警戒を強めている。

この記事だけではよくわからないが、もしかしたら猫たちに害意を持つ人間の手で殺傷されている可能性があるのではないかと思う。では、その場合、犯罪として処罰の対象となるだろうか?

第四十四条  愛護動物をみだりに殺し、又は傷つけた者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

【略】

4  前三項において「愛護動物」とは、次の各号に掲げる動物をいう。

一  牛、馬、豚、めん羊、やぎ、犬、ねこ、いえうさぎ、鶏、いえばと及びあひる

二  前号に掲げるものを除くほか、人が占有している動物で哺乳類、鳥類又は爬虫類に属するもの

少し細かい話だが、上の引用文中の「哺乳類」の「哺」には本当は「ほ」とルビがつけられている。昨年、動物の愛護及び管理に関する法律の一部を改正する法律が公布され、今年9月1日に施行されるが、改正後の動物愛護法では、ルビ「ほ」が削除されるほか、「やぎ」が「山羊」に、「ねこ」が「猫」にそれぞれ改正される。これは、日本語における漢字使用を考える上で興味深いことだが、今の本題には関わりがない。
問題は「みだりに殺し」の部分だ。愛護動物を殺した場合は常に処罰されるのではなく「みだりに」殺した場合に処罰の対象となるわけだが、どういう場合なら「みだりに」に該当し、どういう場合には該当しないのかが明らかではない。
どこかにきちんとした解釈が示されていないかと調べてみたが見つからなかった。そのかわりに見つけたのがこんなコメントだ。

法律学立場からこの条文を見たときに気づく問題は、1項の「みだりに殺す又は傷つける」というのが、それ自体が非常に不明確だということです。その不明確さは、我々の委員会で問題にしている時は、不明確だから被疑者を起訴できないとか、あるいは逮捕できないと、こういう文脈で不明確さが問題になっているんですが、例えば憲法学者などがこれをご覧になったら、このような不明確な条文で国民を処罰するということが、罪刑法定主義上許されるかと、こういう疑問が出てくると思うんです。今まで、起訴事例もあまりないから、被告人がこの条文は憲法違反だなんて争ったケースは多分ないんですけれども、かりに将来弁護士さんが頑張って、例えば憲法問題にしたとき、この「みだりに殺傷」というのが刑罰法規として十分な明確性を備えているかということも、ちょっと問題になると思いますね。特に、「みだりに」というところです。そこのところを明確にしようとすると、やっぱり殺し方、傷つけ方の様々な手段をなるべく細かく書くということが必要になってくるということです。

猫の飼い主が自分の飼い猫を虐待して殺した場合などであれば「みだりに」に該当すると常識的に考えていいが、地域猫の場合はどうだろう? 伊達や酔狂で殺したのではなくて、公園の良好な環境を守るためにやむを得ず殺したのだ、と主張した場合、「みだりに」に該当すると言い切れるだろうか?
あるいは、このような主張はどうか。「霞城公園は愛護動物の『ねこ』ではなく、狩猟鳥獣の『ノネコ』である」と。かなりの強弁にも思えるが、ノネコと野良猫の区別は難しく、野良猫と地域猫の線引きも容易ではない。残念ながら、霞城公園鳥獣保護区に含まれているのかどうか調べきれなかったが、もし含まれていないとすれば、鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律第11条第1項により狩猟期間中であればノネコの殺傷が可能だ。
そろそろ動物愛護法鳥獣保護法の関係をきちんと整理して、地域猫・野良猫・ノネコの基準も明確化すべき時期に来ているのではないかという気がしているのだけど、どうでしょう?
余談だが先ほど引用した中央環境審議会動物愛護部会動物愛護管理のあり方検討小委員会第20回議事録には、動物愛護担当職員への司法警察権への付与についても議論されていて興味深い。

それから司法警察権の件ですけれども、これはぜひ付与していただきたいと思います。例えば、鳥獣保護員は、鳥獣保護行政では司法警察権があるわけですけれども、実質、行政の担当者に聞きますと、2年くらいで、もう交代してしまうので、なかなか専門的にやれないということをおっしゃっていました。そういう問題はあるにしても、やはり、動物愛護担当職員を専門職として設置して、いろいろな問題について、専門家としてアドバイスもできたり、あるいは警察と連携していろいろな活動ができるというふうにしていくことは、動物行政の力を今後強めていくことになるはずです。ですので、動物愛護担当職員に司法警察権を付与するということを、ぜひ進めていただきたいと思います。

鳥獣保護員に司法警察権があるというのは勘違いか言い間違えだろう。鳥獣保護法第76条により司法警察権があるのは都道府県の鳥獣保護担当職員であり、同法第78条の鳥獣保護員とは別。ちなみに、国指定鳥獣保護区を管理する環境省の鳥獣保護担当職員には司法警察権はない。大正十二年勅令第五百二十八号(司法警察官吏及司法警察官吏ノ職務ヲ行フヘキ者ノ指定等ニ関スル件)抄を見ても環境省職員のことは何も書かれていない。というか、これ、最終改正は昭和22年だ。環境省どころか環境庁以前。
それはともかく、動物愛護部会動物愛護管理のあり方検討小委員会(第20回)議事要旨では「別添12 司法警察員について」と「別添13 特別司法警察員等の人員及び捜査活動状況」はどちらも委員限りとなっているのは残念。鳥獣保護法関係の特別私法警察職員の活動状況をぜひ知りたいものなのだけど。