うなぎにょろにょろ

環境省がウナギ(ニホンウナギ)を絶滅危惧II類*1に指定する方針だという。

つい先月、第4次レッドリストが公表されたばかりなのにいったいどうしたことだろう、と一瞬思ったが、よく見れば、先月公表されたリストは10分類群のうち汽水・淡水魚類を除く9分類群だった。ちなみに10分類群とは次のとおり。

  1. 哺乳類
  2. 鳥類
  3. 爬虫類
  4. 両生類
  5. 汽水・淡水魚類
  6. 昆虫類
  7. 貝類
  8. その他無脊椎動物(クモ形類、甲殻類等)
  9. 植物I(維管束植物)
  10. 植物II(維管束植物以外:蘚苔類、藻類、地衣類、菌類)

こうやって並べてみると、日本人にとって非常に馴染みの深いある種の生物がすっぽり抜け落ちているのが見て取れる。それは海水魚だ。なんで海水魚を対象としたレッドリストないしレッドデータブック環境省が作成していないのか、ということについてはいろいろな推測が成り立つが、あまり憶測で物を言ってはいけないので、国権の最高機関に回答を委ねることにしよう。

『日本の希少な野生水生生物に関するデータブック』日本水産資源保護協会 1998 【RA145-G77】)
 環境省レッドデータブックレッドリストには、海生の軟体動物(特に貝類)、海水魚、クジラ類が一種も掲載されていない(管轄が環境省ではなく、水産庁であるため)ため、これらの生物については水産庁が作成したこのデータブックを見ます。カテゴリーの見直しには対応していません。『日本の希少な野生水生生物に関する基礎資料』【RA145-E150】(1:1994〜5:1998)の中で「希少種」、「応急種」、「絶滅危惧種」と評価された種についての生態、漁業との関連、総合評価、参考文献などを掲載しています。また、評価別種類数や分野別評価の一覧なども載っています。環境省のリストと重複している種も多くありますが、評価方法やカテゴリーが環境省のものと必ずしも一致していないため、評価も一致しているとは限りません。

環境省設置法第4条第16号により、「野生動植物の種の保存、野生鳥獣の保護及び狩猟の適正化その他生物の多様性の確保に関すること。」が環境省の所掌事務とされていて、別に海の生き物を除外するという規定はないのだけど、たとえば鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律第2条第1項で「鳥獣」を「鳥類又は哺乳類に属する野生動物」と定義しておきながら、同法第80条第1項で「他の法令により捕獲等について適切な保護管理がなされている鳥獣であって環境省令で定めるもの」にはこの法律を適用しないとしていて、鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律施行規則第78条第2項でクジラなどの海棲哺乳類の大部分を指定している。その他の海の生き物については除外規定を見つけることはできなかったが、まあ、どこかに根拠があるのだろう。
一方、農林水産省設置法第4条第68号で「水産資源の保存及び管理に関すること。」が農林水産省の所掌事務とされており、同法第38条により、外局の水産庁が事務をつかさどることになっている。そこで、水産庁レッドデータブックの出番となるわけだが水産庁のサイト内で検索してみても、このレッドデータブックの掲載種の情報を探すことはできなかった。前世紀に発行された本だから、たぶんウナギもマグロも入ってはいないと思うが、いま改訂したらどうなるのだろうか?
ところで、レッドデータブックレッドリストには都道府県版もある。日本のレッドデータ検索システムでウナギの指定状況を調べてみると、この通り。2都県で環境省と同じ「情報不足」、4道県で「準絶滅危惧種」、そして1県で「絶滅」となっている。
その1県というのは長野県のことなので、長野県版レッドリストで確認すると、ウナギは「野生絶滅」にカテゴライズされていた。長野県内に鰻*2養殖場があるのかもしれない。
長野県といえば、こんな記事を見かけた。

全国紙の記事なら「まあ、こんなものか」という内容だが、地方紙するなのだからせめて自県のレッドリストくらいは確認してほしかった。全国で唯一、ウナギが野生状態で絶滅した県*3なのだから。

*1:「II」は本当はローマ数字だが、ローマ数字は環境によって文字化けすることがあるらしいので、「I」をふたつ並べて表している。以下同じ。

*2:「ウナギ」と「鰻」の使い分けにはたいした意味はない。

*3:都道府県のレッドリストレッドデータブックを信用する限りにおいて。