「保護」と「愛護」(と「保全」と「保存」)

奈良県がニッポンバラタナゴ保護管理事業計画を策定したという話を聞いて、奈良県公式ホームページにアクセスしてみた。

目当てのページはすぐ見つかったのだが、ついでに鳥獣保護関係の情報も調べてみようと思ったのだが、奈良県では希少動植物保護と鳥獣保護は全く別の部署が担当している*1ので、少し手間取った。
その最中に、こんな記事を見つけた。

野生生物に対して「保護」「愛護」は立場を異にします。 鳥獣保護行政は「保護」の立場で仕事を進めています。

例えば、野生のスズメやウサギが、タカに襲われたり、崖から落ちたりしてケガをしていたら、貴方はどのような行動をとりますか?かわいそうだと思って助けますか?これも自然の世界で生きていく野生生物の定めだと思って見守りますか?この場合、前者は「愛護」の立場、後者は「保護」の立場。厳しいようですが、なるべく自然のままの状態を保ち、人間の介入を控える姿勢が「保護」の姿勢なのです。「愛護」の立場も否定されるものではありませんが、野生に生きる生物に関する限り、当課の考え方は「保護」の立場となります。

これは非常に明快でわかりやすい文章だと思った。以前から漠然と考えてはいたものの、自分では明瞭に言い表すことができなかったことを代弁してくれているような気さえした。
ちなみに、「漠然と考えていた」ことを書いたのがこれだ。

たとえば、「クマを射殺しないで!」と訴えるときのことを考えてみよう。動物愛護の観点からそう訴えるのと自然保護の観点からそう訴えるのとでは、見かけは同じでも実は意味合いが全然異なる。

動物愛護活動家は射殺されようとしているクマ個体に他のクマ個体では代替不可能な価値を認め、その価値観に基づいて「クマを射殺しないで!」と訴える。

自然保護活動家はクマが自然生態系に占める位置づけの重大さに鑑み、射殺によって個体群の維持に支障を及ぼすことを恐れて「クマを射殺しないで!」と訴える。

これは、市民活動の立場で「保護」と「愛護」の違いを述べようとしたものなので、上の「鳥獣保護行政の立場」とは立場が違うが、だいたい似たような考えで「保護」と「愛護」という言葉を使い分けているのがわかるだろう。
ところで、このふたつの言葉の対照というテーマで興味深い事例をひとつ紹介しておこう。

◎動物の保護及び管理に関する法律の一部を改正する法律

動物の保護及び管理に関する法律(昭和四十八年法律第百五号)の一部を次のように改正する。

題名を次のように改める。

動物の愛護及び管理に関する法律

【略】

第一条中「保護」を「愛護」に改める。

現在、「動愛法/動物愛護法動物愛護管理法」などという略称で知られる動物の愛護及び管理に関する法律がこの題名になったのは今から10年くらい前のことで、それ以前は「動保法/動物保護法/動物保護管理法」だった。制定時の条文をみると、その第1条で

第一条 この法律は、動物の虐待の防止、動物の適正な取扱いその他動物の保護に関する事項を定めて国民の間に動物を愛護する気風を招来し、生命尊重、友愛及び平和の情操の涵養に資するとともに、動物の管理に関する事項を定めて動物による人の生命、身体及び財産に対する侵害を防止することを目的とする。

と、「保護」と「愛護」の両方が用いられているが、その意味の違いは何となくわかるようであまりよくわからない。現行の条文では「動物の愛護に関する事項を定めて国民の間に動物を愛護する気風を招来し」という表現になっており、「愛護」が重複してややぎこちない印象は受けるものの、「保護」「愛護」の使い分けがなくなった分、わかりやすいといえばわかりやすい。
さて、実はこの後、文化財保護法の前身のひとつである史蹟名勝天然紀念物保存法自然環境保全法を例に挙げて、「保全」と「保存」も含めて、語義や用法、ニュアンスの違いについて語ろうと思っていたのだが、ここで時間切れとなったので、またの機会に。

*1:前者はくらし創造部景観・環境局 自然環境課、後者は農林部 森林整備課が受け持っているらしい。