恐ろしき四月馬鹿

1日午前10時ごろ、白浜町椿の路上で、近くの主婦(62)が、犬4匹前後に顔など全身をかまれ倒れているのを夫(68)が見つけた。女性は重傷で、一緒にいた孫の男児(5)と女児(3)も引っかかれるなどして軽傷。

かんだのは猟犬で、農作物の鳥獣被害対策として狩猟がこの日から許可されたため、山に放たれていた。

狩猟解禁日といえば秋に決まっている*1ので、おかしな記事だと思ったが、続きの文章を読んで意味がわかった。

県は1日〜5月20日を初めて管理捕獲の実施期間に定め、ニホンジカ1500頭の捕獲を目指している。

管理捕獲というのは、鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律第9条に基づき「第七条第二項第五号に掲げる特定鳥獣の数の調整の目的」で行う捕獲のことだが、特定鳥獣保護管理計画に基づくので、一般に「管理捕獲」と呼ばれる。管理捕獲のほか、「鳥獣による生活環境、農林水産業又は生態系に係る被害の防止の目的」の捕獲(いわゆる「有害捕獲」)など、法第9条の許可を受けて行う捕獲を総称して「許可捕獲」と呼び、狩猟期間中にハンターが行う「狩猟」とは区別される。

野生動物を捕るには許可が必要で、許可には狩猟と有害捕獲の2種類がある。狩猟は、鳥獣保護法で「狩猟鳥獣」とされたものが対象となる。狩猟免許を持つ人が、都道府県に登録して行う必要がある。期間や猟の方法は制限される。有害捕獲は、農作物や人間の生活に影響が出る場合に、個人や団体が許可をとり、被害の原因となった動物を捕獲する。県が対象の動物の状況に応じて、捕獲の期間や数を決めている。

ただ、ちょっとややこしいのが、鳥獣保護法上の「狩猟」は許可捕獲をも含む形で定義されている*2ということだ。だから、上で引用した毎日新聞の記事で管理捕獲を「狩猟」と表現してるのは法律上は誤りではない。とはいえ、非常に誤解を招く表現であることは確かだろう。
ちなみに、他社の記事*3では「狩猟」という言葉は使っていない。

おまけ

2年前にも恐ろしき四月馬鹿 - 一本足の蛸という見出しの文章を書いている。というか、いくつかのニュース記事にリンクを張った。今、そのリンク文字をクリックすると、ひとつを除いて記事が削除されていて、なんとも言いようのない寂しさがこみ上げてきた。

追記(2011/04/03)

本文では許可捕獲と狩猟の違いをきちんと説明していないので、予備知識がない人には理解しづらい。そこで、わかりやすく説明した文章はないかと探したところ、農林水産省が作成した『野生鳥獣被害防止マニュアル−イノシシ、シカ、サル、カラス(捕獲編)−』を発見した。第2章 捕獲に関する基礎知識(PDF:852KB)の16ページから21ページ*4を参照されたい。
ちなみに、同じマニュアルの第3章 鳥獣種別の捕獲方法(PDF:2,316KB)84ページから85ページ*5で紹介されている「和歌山県におけるタイワンザル捕獲」は以前社会的問題を引き起こした曰くつきの事業*6だ。この話題は機会があれば取り上げてみたいもののひとつだが、なかなか資料が揃わなくて難航している。

*1:鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律施行規則第9条により、北海道は毎年10月1日、北海道以外の区域は毎年11月15日が原則として狩猟解禁日となる。ただし、鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律第14条第2項の規定により狩猟解禁日の前倒しが可能だが、その場合でも北海道で9月15日以降、北海道以外の区域では10月15日以降となる。

*2:法第2条第4項参照。その前後の「狩猟鳥獣」と「狩猟期間」の定義は許可捕獲とは直接関係がなく、狭義の「狩猟」に関する用語となっているのが何とも悩ましい。

*3:ネットで検索してみつけたものに限る。

*4:PDFファイルの2ページから7ページ。

*5:PDFファイルの44ページから45ページ

*6:タイワンザル ナチス - Google 検索で調べると、日本熊森協会和歌山県 タイワンザル・混血ザル ナチス的発想の殺害にストップを!ほか、ナチスの思想との類似を指摘する文章がいくつも見られる。もっとも、ナチスはむしろ動物愛護法制化の先駆として知られているので、このアナロジーにはいびつなものがあるように思う。