ロケットと振り子、あるいは枠内に取り込まれた枠外について

「枠内に取り込まれた枠外」という言い回しは非常にぎこちない。もっといい言い方はないだろうか、と考えてはみた。「ルビンの壺」ないし「図地反転」というのは少し違う。同じ壺でも「クラインの壺」はかなり近い。しかし、これから書こうとしていることそのものではない、云々。結局、見出しに凝るのは諦めた。
さて、この記事のテーマは「ロケット」、そして「振り子」だ。どちらも映像を中心に話をする。
ロケットといえば、昨日、北朝鮮が打ち上げに失敗した光明星3号を連想する人が多いと思うが、今日の話とは関係ない。今日取り上げるのはカルピスソーダ学園宇宙部が打ち上げたロケットのことだ。

このCMの最後でドキュメンタリー公開中と案内されているので、ドキュメントムービー紹介ページをみると、全5話構成となっていて、現在は第4話まで公開されているようだ。



このドキュメンタリーは、CM制作の過程を追って作成したものであり、事実に基づきながら再構成をし、演出を加えております。

と書かれているが、実際に見てみると、特に第一話の「突然ですが」のシーンなど、後から再現映像として撮影されたのだろうと容易に想像がつく。
それはさておき、このドキュメントムービーはそれぞれ最後に宇宙部員たちがみんなでカルピスソーダらしきものを飲むシーンで締めくくられている。つまりこの映像そのものがCMとなっている。
もちろん、メーカー公式サイトで公開されている映像なのだからCMであることは当たり前なので特に驚くべきことではないのだが、テレビCMの制作過程を紹介する、いわば「メタCM」の中に、通常のテレビCMと同様の手法が用いられているということは、考えてみると興味深い。ドキュメントムービーの各話は途中まではテレビCMの枠外の視点に立っているのに、最後のシーンで枠内に取り込まれているのだ。
枠内に取り込まれているといっても、こけらの映像がテレビCMとして放映されているというわけではない。まあ、やってできないことはないだろうが、尺が長いので費用が嵩む。そこで、テレビCMでは最後にドキュメンタリー公開中と案内し、「カルピス学園」で検索するように促しているのだろう。比喩的にいえば、テレビCMに表示された検索窓は、クラインの壺の三次元的表現において自己交差するために曲面にあけられた穴のようなものだ。
以上で、ロケットについての「枠内に取り込まれた枠外」の話はおしまい。
次に、振り子の話。
昨日の朝、めざましテレビで、鉄拳という人*1の「振り子」という映像作品*2を紹介していた。3分程度のごく短い作品だが、朝の慌ただしい時間帯の情報番組でノーカット放送するというのは異例のことではないかと思う。
一度見ただけでは細かいところがよくわからなかったのだが、YouTubeで何度か繰り返してみて、だいたいのストーリーの流れは理解できたと思う。

めざましテレビでの作者へのインタビューでは、いちばん最初に老人が振り子を止めようとするシーンから思いついたというようなことを語っていたと記憶している。実際に作品をみても、そのシーンがクライマックスになっていることは間違いない。
そのシーン以前には、振り子は物語の枠外にある。ここで言う「枠外」とは、たとえば背景音楽のような位置づけだと考えていただきたい。それは確かに物語の一部ではあるのだが、物語の登場人物が決して認識することがないという意味で、外にあるのだ。
「いや、振り子のついた時計を買うシーンがあったでしょ?」と反論されるかもしれないが、あれは物語の中に登場する物理的実体を備えた振り子であって、この映像の最初から出てくる、時間の流れを象徴する振り子とは異なる。老人が振り子を止めようとするシーンで彼が必死で押さえているのは、もちろん象徴的な振り子のほうであり、結婚時に買った時計の振り子ではない。第一、大きさが全然違うではないか。
このシーンで、枠外にあった振り子が枠内に取り込まれ、物語の秩序に揺らぎをもたらす。これが面白い。
ところで、同じ作者の映像作品がほかにもいくつかアップされている。


「絆」は「振り子」とよく似ているが、クラインの壺を想起させるような構造にはなっていない。「ツナガル」は中盤以降の展開が意表を衝くが、その面白さは「振り子」とは異なる*3。3作品ともに情に訴える作品だが、その中では「振り子」がもっとも知的興味をそそられるため気に入っている。
「枠内に取り込まれた枠外」という言い回しで、もともと異質なものを強引に結びつけて紹介してみた。特にそこから結論を導き出そうと思ってのことではない。よって、この話にはオチはない。

*1:この人の本職はお笑い芸人だそうだが、全然知らない人だ。知人に訊くと結構有名な人らしい。でも、鉄拳 (お笑い芸人) - Wikipediaに掲げられている出演番組一覧をみても、「そんな番組あったかなぁ」と思うようなものばかりだから、知らなくても仕方ない。

*2:この作品はネット上では一ヶ月ほど前に話題になっていたようだが、それも全然知らなかった。

*3:スケールを変えると予想外のものが見えてくるという点で、10年ほど前の公共広告機構の「IMAGINATION」という作品を連想した。これは「黒い絵」というタイトルでYouTubeに複数アップされている。いつ消されるかはわからないが、とりあえずその一つにリンクを張っておく