中西智明の復活?


あと中西氏はカムバックしたがっているそうな。期待age。
これを読んで無性に気になったので、『法月綸太郎の本格ミステリ・アンソロジー (角川文庫)』を買ってきた。
そのあとがきによれば、

『消失!』(一九九〇)を発表してから、長い沈黙をつづけている中西氏だが、二〇〇五年現在、カムバックを目指す本人の意志は固いようだ。本格にかける情熱はまったく冷めていないし、ブランクの間も、コツコツと第二作の原稿を書きためているという。そう遠くない時期に、よりパワーアップした長編を引っさげて、劇的な復活を見せてくれるにちがいない。その日が一日も早く訪れることを、心から祈っている。
ということなので、これは期待できそうだ。ぜひ復活を遂げてほしい作家の一人だ。
ところで、『法月綸太郎本格ミステリ・ライブラリー』に収録されている「ひとりじゃ死ねない」はいわゆる「新本格推理」の一つの原点にして到達点であり、日本ミステリ史を語る上で避けては通れない作品なので、未読の人はこれを機会にぜひ熟読していただきたい。
同種のトリックを用いた作品がいくつも発表された後では、この作品が与えてくれる驚きは初出時に比べると多少減じているかもしれない*1が、「あのトリックのルーツがここにあったのか!」という発見があるかもしれない。あとがきによれば、本編のオリジナルは、一九八九年六月十四日、京都大学推理小説研究会の朗読「犯人当て」として発表されたものだという。聞くところによれば、これと同じ頃*2に、関西の別の大学のミス研でも同種のトリックを用いた犯人当て小説が試作されていて、それは「ひとりじゃ死ねない」の翌年に長篇小説として発表されている。また、関西の別のの大学のミス研出身者が、1997年に決定版ともいうべき短篇を発表している。それぞれ独立に同じトリックに至ったようだが、全員関西のミス研出身というのが興味深い。
話を中西智明に戻すと、京大推理小説研究会の機関誌『蒼鴉城』*3に「思い通りの殺人」という作品が掲載されている。これもまた傑作なので、何らかの形で公開してもらいたいものだ。

*1:小説本文の前のページに編者の紹介文が掲載されているのだが、そこで著しいヒントが与えられてしまっている。私見ではこれはほとんどネタばらしに近い。法月綸太郎ほどの人がその点に配慮しないわけはないので、そこまで明かしてもまだこの作品は味読に耐えうるという編者としての強い意志の表明だとみるべきだろうが、できればこの紹介文は本文のあとで読んだほうがいいと思う。とはいえ、右ページに紹介文、左ページに登場人物一覧が掲載されているので、読み飛ばすのは難しそうだ。

*2:正確な年月日は不明だが、1980年代後半であることは間違いない。よく考えれば、直接確かめたわけでもないのに「間違いない」などと断言すると具合が悪いので削除する。

*3:たぶん1989年か1990年の号だったと思うが、手許に資料がないのでうろ覚えだ。