新潮400円文庫(税別)

七つの黒い夢 (新潮文庫)

七つの黒い夢 (新潮文庫)

積ん読解消のため新刊を買うのは控えめにしているのだが、気になる書評を見かけたので、ついふらふらと買ってしまった。

とりわけ、ライトノベルの注目作家・桜坂洋の作品は、ダークでもなければファンタジーでもない日常ミステリ系作品で、まるで米澤穂信への挑戦状かと思えてくるほど実に見事な新境地の開拓っぷりでありました。その割には、ミステリというよりキャラ萌え小説どまりなところが、いかにも桜坂洋といったところ。ファンなら絶対必読でしょう。もっとも、全ての探偵小説が探偵役に対する愛に満ちたキャラ萌え小説だと解釈すれば、本作品もあながち道を誤ったものでもないと判断できると思われますが。
これは「10月はSPAMで満ちている」についてのコメントだが、果たして「米澤穂信への挑戦状」というような内容だったろうか? 「小説新潮」に掲載されたときにざっと立ち読みしたのだが、全然そんなふうには感じなかった。でも、読み返してみたら別の印象を受けるかもしれない。
で、読み返してみた。
初読時と同じ感想だった。
よくわかる現代魔法』シリーズに登場する坂崎嘉穂の数年後の姿を描いた作品であり、このシリーズの読者にとってはなかなか興味深い。ただ、掲載誌に配慮したのか、さほどキャラ萌えに力点が置かれてはいない。では、ガチガチのミステリかといえばそういうわけでもない。なんていうんだろう……うん、一言でいえば「微妙」だ。ああ、便利な言葉だ。少なくとも、今ネット上では最も人気のあるミステリ作家*1を引きあいに出すような種類の小説ではなかった。たぶん、この小説の魅力はここで書かれているようなところだろう。
「10月はSPAMで満ちている」の再読が主目的ではあったものの、せっかく買ったのだからと他の6篇も読んでみた。う〜ん……微妙だ。
いや、ひとつひとつの作品の出来は悪くはないんだけど、続けて読むと統一感がありそでなさそで何とも言い難い不思議な気持ちになってくる。これから読む人はできれば1篇ずつ間を置いて読んだほうがいいだろう。