作品論と作家論

作品論は作品について論じる。当たり前だ。
では、作家論は作家について論じるものか? そうではない。
私見では、作家について論じるのは人物論だ。論じる対象の人物がたまたま作家であるというだけのことだ。どういうものが作家論なのかといえば、その作家の作品について論じるもの、これである。
「それでは作品論と作家論に違いがないではないか」
然り。作家論というのは作品論の一種だ。
ただ、強いて区別をするとすれば、こうなる。ある作家の名の下に複数の作品が存在するときに、それぞれの作品を個別に論じるのが作品論。一方、各作品に共通に見られるテーマやパターン、または作品間の差異について論じるのが作家論。
ここに述べた見解は極論だ。人物論を全く欠いた作家論はあまり現実的ではない。とはいえ、作家が作品以外の場で示した言動をもとに論じた作家論、または作家の経歴をもとに論じた作家論というものに非常に強い違和感をおぼえるのもまた事実だ。