『ボトルネック』の、やっぱりあまりまともではない感想

ボトルネック

ボトルネック

『ボトルネック』の、あまりまともではない感想の続き、というか仕切り直し。前回は文字数が多く不評だったので、今回は短くまとめる。ただし妄想はそのまま。
以下、『ボトルネック』の内容に触れるので、未読の方は決して読まないように。

嵯峨野サキは巨乳ですか?

ボトルネック』には、嵯峨野サキ、諏訪ノゾミ、結城フミカの3人が登場するが、3人ともバストサイズが不明だ。巨乳か貧乳かを推測するデータは全くない。まあ、ノゾミは巨乳ではないだろうが。
視点人物でもある主人公嵯峨野リョウは高校一年男子だが、そうとうのどぼくねんじん*1と思われる。フロイト的解釈は読者諸賢にお任せする。

嫉妬は緑の目をもつ

第四章の章題は「緑の目」だが、第二章に登場する黒猫以外には『ボトルネック』には緑の目をもつ者は登場しない*2。第三章の意味深長なエピソード*3と重ね合わせると、「緑の目」はこのことと思われる。

想像力の射程

ボトルネック』のキーワードのひとつ「想像力」はかなり多くの含みをもつ。たとえば、それは「好奇心」*4、「洞察力」「推理力」*5でもあり、さらに「創造力」をも射程に含む*6。なお、「想像力」によって代用・代表された語のうち「好奇心」は129ページ16行目で、「洞察力」は142ページ16行目で、それぞれ1回ずつ用いられているが、「推理力」に至っては、遂に一度も用いられていない。
なぜか。
それは『ボトルネック』が推理小説ではないからだ。

役立たずに薔薇を

「私がちょっと気になったのは、リョウがサキのいる世界に行ったことがきっかけでサキがノゾミを救うところなんです。つまりリョウの存在が役に立ってしまっている。サキが徹頭徹尾自力で謎を解いてリョウはただそれを傍観しているだけ、というのでないと作意にあわないでしょう」
「う〜ん。そりゃそうだけど……」
「少なくとも、北陸本線のダイヤみたいなどうでもいいことに比べれば、ちっとはどうでもよくないことなんではないでしょうか?」
「いや……これって夢オチだし。リョウも少しは役に立った、と読者に思わせておいて、最後にその幻想を幻滅に転じているのだと考えれば……」
これは難問だ。そもそもこれは夢オチか?

死に至る瓶の首

瓶の首は瓶の中から外に出る際の支障ではある。だが、ほかには出口はない。瓶の首は唯一の通路である。「ボトルネック」の辞書的な意味に拘らなければ、このタイトルが「絶望」の暗喩であることは明白だ。「絶望」という語そのものは最終ページでただ一度だけ用いられているに過ぎないが、「想像力」*7と両輪をなすキーワードだ。


真っ暗な海と、曲がりくねった道。それは失望のままに終わらせるか、絶望しながら続けるかの二者択一。そのどちらもが、重い罰であるように思われてならなかった。
ボトルネック』を読んで「主人公は絶望のあまり海に身を投げる」と思った人は、もう一度この文章を読み返すとよい。ここで「真っ暗な海」に割り当てられているのは「失望」のほうであり、「絶望」ではない。
ところで、『ボトルネック』がもし夢オチだとすれば、「リョウが生まれなかった世界」はすべて彼自身の想像力の産物ということになる。「絶望」と「想像力」はこの作品の両輪だから二者択一の結果は言うまでもないと考えるが、如何?

もうひとつのボトルネック

ボトルネック』というタイトルには、作者の意図を超えたもう一つの意味*8がある。それは、ボトルネック』自体が、米澤穂信にとっての「ボトルネック」だということだ。
これまでの米澤穂信は「失望」の作家だった。米澤作品の主人公は決して「もう、生きたくない」とは言わなかった。そのような野暮な台詞*9は決して言わせなかった。
しかるに『ボトルネック』において初めて米澤穂信は「絶望」を描いた。これは総決算でもなければ一次決算でもない。当然、補正予算でもない。「これは米澤穂信の最高傑作だ!」というような絶讃の言葉を見聞きすると何とも釈然としない。傑作か駄作かの二者択一を迫られれば「傑作」と答えるしかないのだが、自由回答なら「ボトルネック」とコメントしたい。

重箱の隅、またはちゃぶ台返し

以上でいちおう『ボトルネック』の感想文はおしまいなのだが、最後にちょこっとだけ。

  • 突風はいきなり予想もしない方角から吹き付けることがある。
  • 寝たきり*10でもいちおうは生きているのだから、生死を分けた*11とは言えないのではないか。
  • 外聞を異常に気にする母親が息子の新聞配達を放任するだろうか。
  • 耳で聞いただけで「河盛」でも「川森」でもなく「川守」*12と漢字変換できる根拠がわからない。というか、こいつ何者?
  • 事故がなくても取り替えたのなら、事故があったならその時全部の柵と鎖を取り替えていたことだろう。現場だけというのはみみっちい。
  • サキの痛手*13とは何だったのか。自転車事故は「古い恋」とは言い難いだろう。

最後の最後にちゃぶ台返し前回と今回、2回にわたってさんざん偉そうなことを語ってきたわりには、『ボトルネック』が全然理解できていないことを告白しておこう。何が理解できていないって、そりゃあんた、ラストシーンがちんぷんかんぷんでして、「水子って日本語しゃべれるの?」と首を傾げた次第。読み巧手の卓見を伺いたい。

*1:ドレッドノート級の朴念仁ということ。ただし、「ど」は程度の大きいことを表す関西起源の接頭辞とも解釈できる。

*2:少なくとも目の色が緑だと書かれている人物はいない。リョウとサキの目の色は鳶色なので明示的に排除される。

*3:157ページから161ページ。

*4:76ページ9行目の用法。

*5:該当例多数。

*6:214ページ1行目。ただし「想像力}を単に「創造力」に置換できるわけではない。

*7:さすがにこの語の使用回数を数える気にはならなかった。

*8:上で述べた解釈が作者の意図に沿うものだと主張しているわけではありません。念のため。

*9:例:「大人なんて信じられねえ」「他の誰にもない個性が、誰にだってあるんだ」

*10:86ページ2行目。

*11:88ページ13行目。

*12:161ページ7行目と11行目。

*13:102ページ18行目。