日本空想科学小説全集

先日、某所の忘年会で、何かのひょうしに「創元推理文庫の『日本探偵小説全集』のSF版を編むとすれば、どんなラインアップになるか」という話題になった。
知らない人のために説明しておくと、『日本探偵小説全集』とは

  • 全12巻で構成されている。
  • 基本的に1作家1冊だが、2人以上の作家の作品で構成された巻もある。
  • 第11巻と第12巻は「名作集」と題されており、作家単位のアンソロジーには入れにくい短篇を収録している。
  • 戦前派の作家を対象にしているが、横溝正史坂口安吾のように、デビューは戦前だが探偵小説の分野での代表作が戦後に集中している作家もいる。

という特徴をもっている。
いわゆる「第一世代」の作家でも全員戦後にデビューしているから、これをそのままSFに応用するのは無理がある。では、収録作家の下限をどこに設定すればいいか?
第二次世界大戦というのは政治的・社会的にも大きな節目だが、日本探偵小説史内部でも大きな意味をもっている。殺人事件を扱う小説は時局にそぐわないという理由で軍部に睨まれて、戦時中は探偵小説がほとんど書けない状況だった。日本SF史にはこれほど大きな節目はないと思うが、便宜的に線引きするなら映画「スターウォーズ」公開日というのがいいのではないかと提案し、その場の人々の同意を得た。
さて、次は作家の選定だが、戦前派なら押川春浪海野十三は欠かせない。ほかに小酒井不木を推す人もいたが、単独で1巻を編むほどではないと却下。その場では言及されなかったが、夢野久作小栗虫太郎を入れたいところだ。ただ、小栗虫太郎の『人外魔境』はいいとして、夢野久作の『ドグラ・マグラ』は既に『日本探偵小説全集』に収録されているので重複する。かわりに『白髪小僧』を入れるという手もあるが……。
戦後の作家なら、まずは今日泊亜蘭、ついで矢野徹ということになるだろうか。もちろん御三家の小松左京星新一筒井康隆は外せない。もちろん、眉村卓豊田有恒などの名前も挙がった。なぜか誰も福島正実の名は挙げなかった。
その後、「第二世代」から誰を選ぶか、という話になるはずだったが、このあたりで「そういえば、今の若いSFファンは御三家すら読んでいない」とか「星新一筒井康隆は今でもだいたい読めるが、それ以外の作家の本は流通していない」とか「小松左京全集は高すぎる」とか、そういう方向に話が流れて、尻切れトンボになってしまった。
で、この話はこれでおしまいなのだが、誰か本当に『日本空想科学小説全集』を編んでくれる人はいないだろうか? できれば年少の読者でも入手しやすい文庫版で。売れないだろうけど。