「咎」という字はハングルに似ていると思ったことはありませんか?

僕の妹は漢字が読める (HJ文庫)

僕の妹は漢字が読める (HJ文庫)

20世紀の妹萌え文学の大家、夢野久作の代表作『ドグラ・マグラ』は義妹小説の傑作だが、実妹小説の「瓶詰地獄」は掌篇ともいえるほどの短さにもかかわらず、大長篇『ドグラ・マグラ』に匹敵する濃密な萌えを内包している。ごく簡単な漢字しか書けない幼い兄妹が無人島に流されて、1冊の新約聖書を教科書にして漢字を学んでゆくという成長物語だ。
「瓶詰地獄」が世に出てから80年以上の歳月を経て、21世紀の日本に突如現れた妹萌え技巧文学の第二の高塔、それが『僕の妹は漢字が読める』である。だが、版元サイトの特設コーナーから冒頭部分をつまみ読みしただけの人は「ただの出オチ小説じゃないか」と思ったかもしれない。出オチ小説だという感想は決して間違いではないのだが、かと言ってそれだけの小説でもない。この小説の主人公も、その妹たちも、さらにその他の登場人物もみな既存のラノベやマンガ、アニメなどのキャラのパッチワークで、特に個性的な人物は一人も登場しないのだ。このことは、「瓶詰地獄」の手記部分に用いられた漢字がすべて文語訳聖書に含まれているものだということを想起させないだろうか?
聖書から採られた語句のみで構成されているからといって「瓶詰地獄」が聖書の焼き直しや模倣作などではないように、『僕の妹は漢字が読める』は既存のライトノベル劣化コピーではなく、極めて独創的な新境地に達している。このような小説はめったに読めるものではない。
……まあ、そんな御託はどうでもいい。久しぶりに面白い小説を読んだ。それだけで十分だ。うん、いい小説でした。