チョコレート殺人事件

香気溢れる密室

雪子は夫が若い愛人と密会している現場に踏み込み両者を重ねて四つにした後扉の閂と受け金具の間にチョコレートを挟み込んでから現場を脱出しその後チョコレートが溶解して閂がかかり現場は密室状態となったが扉付近のチョコレートは勤勉なる蟻たちの働きにより巣穴に運ばれたので事件の謎は解かれず迷宮入りとなった。

甘き死よ

月子は自分を捨てて伯爵令嬢と結婚することとなった元恋人が背中を向けた瞬間に隠し持った重量二十五キログラムのチョコの棍棒で彼の後頭部を殴打して殺した後棍棒を分割して毎日食べ続け捜査に来た刑事にもホットチョコレートをふるまうなど証拠隠滅に励んだ結果証拠不十分で不起訴処分となった。

焦げ茶色の小舟に揺られ

花子は憧れの先輩に渡したラブレターが男子生徒の間で回読されている事を知り月夜に近所の児童公園の池のそばに先輩を呼び出し麻酔薬で昏倒させた後チョコレートで作った小舟に死体を乗せて池にそっと押し出して池中央付近にて溺死させたが単なる事故死として処理された。

結語

以上三件はすべて有限会社ぶろーくんはーと製菓が自社のチョコレートの販売促進のために彼女らを巧みに煽動誘導し行わせしめた事件であって事件はすべて有耶無耶になったもののその真相は口コミで恋する乙女の間で流布し翌年二月には同社製チョコレートの売り上げは前年比二百十パーセントとなったため同業他社を刺戟し各社とも次の商戦に向けて新たなる完全犯罪の奸計を考案中の由。

これは、去年8月7日、バレンタインデーとは全く縁もゆかりもない日に書いたショートショートの再掲。原文はここ。読み比べてみればわかるが、一字一句違わず全文を引用タグで挟んだ*1ものだ。
過去ログの彼方に埋もれて顧みられることのない記事を再掲することで、新しい読者の目に触れることになれば幸いだ。これで何か反応があるようなら、これからどんどん昔の記事を再掲してお茶を濁すことができて、さらに幸いだ。ちなみに、最初に掲載したときには、こんな反応があった。コメント欄での釈明と併せてお読み頂きたい。

*1:ただし、見出しのカテゴリーは「創作」から「発掘」に変更している。「発掘」というカテゴリーはここで1回使ったきり、すっかり忘れていた。このたび、非常に不毛な形ではあるが、再利用を果たすことができて心から嬉しく思う。