一迅社文庫2008年8月刊行全3冊の感想

さすがにもう「創刊第○弾」でもないだろうから、今回から見出しを変えることにした。だが次回があるとは限らない。
先日来のキーボードの不調により長文を書くと疲れるので、ごく簡単に。

女帝・龍凰院麟音の初恋

女帝・龍凰院麟音の初恋 (一迅社文庫)

女帝・龍凰院麟音の初恋 (一迅社文庫)

ベタネタ多数。ここまでてんこ盛りだと逆に圧倒される。読了直後に「『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』より面白い!」と言ってはしゃぎ回った*1のはここだけの秘密だ。つまり秘密でもなんでもない。
その後、「おっぱいよりも、きみが好き」という名台詞*2に元ネタがある*3ことを知り、評価をやや下方修正したが、それでもかなり面白い作品だと思う。ただし、ベタをベタとして楽しめる人以外には薦めない。

SchoolHeart's 〜月と花火と約束と〜

萌ドラCD School Heart'sのノベライズ……というわけではなくて、キャラクターと設定を借りた二次創作のようだが、原作のCDを聴いていないのでよくわからない。この本単独でもちゃんと読めるようになっているが、CDを聴いた人だけがわかるネタがあるのかもしれない。
4人の作家の競作アンソロジーという企画もので、各篇は少し長めの短篇程度でやや物足りない。キャラクター小説にはそれなりの分量が必要だということを再認識した。
その中では、文体面でもストーリー面でもライトノベルの王道を行く伏見つかさ「月夜の晩に鈴は鳴る」と、逆に癖のある叙述*4と内容で我が道を行く内田竜宮丞「美里の恋愛指南塾!?」が面白かった。

ANGEL+DIVE 2.REUNION

ANGEL+DIVE (2) .REUNION (一迅社文庫)

ANGEL+DIVE (2) .REUNION (一迅社文庫)

一迅社文庫初のシリーズ2巻め。1巻の段階からタイトルに巻数表示が入っていたので、この作品が一迅社文庫の中で特別扱い*5されていることがわかる。
独特な雰囲気を醸し出す文章は決して読みにくいわけではないが、斜め読みをゆるさない。スピード感重視の読者にどの程度受け入れられるものか、若干の不安はあるが、この調子だと10巻を超えるような大長篇でもなさそうなので、完結までこのまま突っ走ってほしいとも思う。

まとめ

今回初めてオビや折り込みチラシに次回刊行予定作品すべてのタイトルが掲載されたが、そこで予告された4タイトルのうち1つの発売延期が決まっており、まだ安定供給態勢が確立していないことが窺い知れる。
書店によっては既刊はあるのに新刊が入荷されていない*6ところもある。新興レーベルから中堅レーベルへと移行できるかどうか、今が正念場だろう。
この辺りでレーベル全体の知名度を上げるようなヒットタイトルが出てくるかどうかが、一迅社文庫の今後を占う鍵になりそうだ。
なお、余談だが、末尾を「……になりそうだ」で締め括った記事は概して無責任なので眉に唾をつけたほうがいい。

*1:某オフ会にて。なお、そこで『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』を引き合いに出したのは、この作品がその場にいた人たちの間で特に注目を浴びていたからで、特に内容面での類似が著しいというわけではない。

*2:これは「まいじゃー推進委員会!」でも紹介されている。登場人物の台詞ではないが、強く印象に残る。

*3:ジョルジュ長岡 - Wikipediaジョルジュ長岡まとめサイトなどを参照されたい。

*4:「男の子」の演技を地の文に書くという技巧は一般文芸でもあまり見かけない。

*5:10月に2巻が出る予定の『死神のキョウ』と『さくらファミリア!』ともに、1巻のタイトルに巻数は入っていない。

*6:近所の宮脇書店では先月の新刊が平台に積まれたままになっていた。それはそれでどうかと思うが……。