「魅力発信」の不思議

いま試しにグーグルで「魅力発信」を検索してみると、最上位に魅力発信のニュース検索結果が表示される。これは同じグーグルの他の検索結果へのリンクであるため度外視して、以下10件*1を紹介しよう。

  1. 埼玉県/彩の国魅力発信サイト
  2. The Secrets of Gunma Web Site ぐんまの魅力発信サイト【秘密のぐんま】
  3. 〜アントレプレナーシップ教育〜 平成21年度地域の魅力発信アイデアコンテストの参加募集について −東北経済産業局−
  4. 千葉の魅力発信推進本部の設置について
  5. 地域の魅力発信 アイデアコンテスト
  6. 山口県/広報広聴課/山口県魅力発信番組・テレビ番組
  7. 「にし阿波魅力アップ大作戦」にし阿波の魅力発信!!
  8. 名古屋市:ものづくりのまち魅力発信(南区)
  9. ものづくり産業魅力発信事業
  10. 「やまなしの魅力発信リポーター」を募集します/富士の国やまなし観光ネット
  11. 宮崎県:宮崎の新魅力発信!「宮崎観光遺産」

10件と言いながら11件になってしまったが問題はないだろう。
こうやって並べてみると、役所、特に地方公共団体のサイト内の記事が多いことに気づかされる。ここでは省略したが、「魅力発信」を含むニュースなどもたいていは役所や商工会、観光協会などの事業を取り上げている。
また、発信されるのは、概ね「地域」の魅力だ。魅力的 - Google 検索でみると、人物やアイテムへの適用例が多いのだが、「魅力」のあとに「発信」がつくと、一気に適用範囲が狭まって特定分野の話に限定されてしまうのが興味深い。要するに「魅力発信」はお役所言葉だということだろう。
別にお役所言葉全般にケチをつけるつもりはない。ただ、「魅力発信」はいただけない。何度見かけても違和感がある。その理由を説明しよう。
魅力というのは、人を惹きつける力のことだ。「力」といっても物理的な力ではない。人に興味や関心を持たせ、注目させ、より近づきたい、よく知りたいと思わせる作用のことだ。ある人/物が魅力をもっているなら、人々はその魅力によって彼・彼女/それに自ずと目を向けることになる。
地域の魅力を内から外へと発信するというのは、その人為性及び作用の向きにおいて、「魅力」という言葉本来の意味から外れるのではないか。「魅力」を「吸引力」と言い換えて、「地域の吸引力を(地域外へ)発信する」と表現したなら、その奇妙さがよりはっきりと見て取れる。
地方の役所や商工会や観光協会が発信しようとしているのは、本当は「地域の魅力」ではなにく、「地域のよさ、長所、美点」であるのだろう。もし、その地域に本当に魅力があるのなら、地域のよさは口コミでじわじわと人々に浸透し、それに惹かれて人々がやってくるはずだが、実際にはそんなに魅力的な地域というのはそう多くはない。日本中には、「よその人を惹きつけるほどの魅力はないけれど、実は案外いいところ」というのが結構あって、地元の人々がそのことを惜しんで、何とか多くの人に知って貰いたいと思うとき、「魅力発信」という珍妙な言葉が心の隙間に忍び込むのかもしれない。そう考えると無碍に誹る気にもならないのだが、でもやっぱり「魅力発信」などと言っているようでは、地域の価値を減じるのではないかなぁと余計な心配をしてしまったりもするわけである。

*1:字下げされて表示されたものと新聞社などのニュース記事は省略した。