動物愛護と自然保護は違う

たとえば、「クマを射殺しないで!」と訴えるときのことを考えてみよう。動物愛護の観点からそう訴えるのと自然保護の観点からそう訴えるのとでは、見かけは同じでも実は意味合いが全然異なる。
動物愛護活動家は射殺されようとしているクマ個体に他のクマ個体では代替不可能な価値を認め、その価値観に基づいて「クマを射殺しないで!」と訴える。
自然保護活動家はクマが自然生態系に占める位置づけの重大さに鑑み、射殺によって個体群の維持に支障を及ぼすことを恐れて「クマを射殺しないで!」と訴える。
両者は必ずしも矛盾するものではないが、常に両立するわけでもない。一人の人、または一つの団体が動物愛護と自然保護の両方の考え方にコミットしている場合、どちらの観点からみても同じ主張が出てくるときには問題が少ないが、そうではない局面に立たされたときには葛藤に悩まされることになるだろう。
もちろん、自らを突き動かす原動力についてあまり深く考えずに行動している人や団体の場合、本来なら葛藤に悩まされるような局面でも「深く考えない」という方法で簡単に乗り切ってしまうということは十分にあり得る話ではある。