空き店舗に重税を!

以前、こんな文章を読んだ。

昔ながらの商店街が衰退する理由についてはさまざまな人がさまざまな意見を述べているが、ここでは「シャッター商店街の所有者たちは、お金がなくてシャッターを閉めるのではなく、お金があるからこそシャッターを閉めておける」という重要な指摘がなされている。似たようなことは以前、藻谷浩介氏の講演でも聴いたような記憶がある*1が、意外とまちづくり系の本や行政資料では書かれていることが少ない。
ともあれ、「お金があるからシャッターを閉めておける」というのが事実であるなら、シャッターを開けさせるにはお金を奪うのがいちばん有効ということになるだろう。「お金を奪う」というのは物騒な言い方だが、要するに空き店舗に高率の税をかけて、他人に貸すなり売るなり自分で店を開けるなりしないと損をするように仕向けるということだ。
木下斉氏も次のように述べている。

私は本気で中心部再生をするとコミットするのであれば、中心市街地設定をしたエリアの遊休不動産にはどんどん課税率がupするペナルティ課税すべきと思っています。貸さないといけないようにならない限り、利活用は進まないわけですが、今だとごね得です。ま、そこまでして中心部を再生しますか? ということです。実際には訴訟になったりするでしょうが、それくらいのことしないと、と思いますが、これも皆が持っている資産規模とのバランスで、「別にその程度であれば金で解決」という程度だとこの意味もないでしょうね。

さて、しばらく経って、同じ木下斉氏がTwitter中心市街地活性化について連投した呟きを目にした。木下氏本人によるまとめがあるので、そちらにリンクしておこう。

要望とコメントを圧縮して1ツイートにしているので、背景知識がないと理解しづらい事項もあるのだが、察し読みした範囲ではまあだいたい納得できる意見だった。
ただ一つ、次のツイートには「おやっ?」と思った。

「空き家条例」とは空き家の適正管理を所有者に義務づけたり、廃屋の撤去を指導・勧告したりする条例の総称である。住宅地の空き家が主な対象になっており、シャッター街の空き店舗対策には使いづらい。そんなことは当然、木下氏もご存じのはず。空き家条例は国の法律に基づく委任条例ではなく、自治体が抱える課題を自治体が自ら考えて制定した自主条例なので、「空き家条例同様に」とはそのことを指しているのだろう。そして、「固定資産税は自治体」というフレーズから、空き店舗へのディスインセンティブ手法として、ペナルティ課税を示唆しているように思われる。
そこで、件のツイートを「自治体が自ら考えて空き店舗へのペナルティ課税制度を創設すればよい」という意味に理解したのだが、このようなことは可能だろうか?
税法のことはよく知らない*2ので、素人談義の域を出ないのだが、自治体独自で空き店舗の固定資産税率を上げたり、独自の空き店舗税を創設したりするのは、今の地方税法のもとではできないのではないだろうか? なんとなくそう思うだけで、具体的な論拠を示すことはできないのだが、以下のリンク先が傍証になるかもしれない。

2例とも空き店舗とは直接関係がないが、昨年の地方税関係の重要判例なので、ご存じの方も多いだろう。たまたまこの2例だけ知っていたが、ほかにもより今の話題を考えるのに適当な判例があるかもしれない。
法律の専門家なら、これらの判例からさまざまな検討事項を見いだすだろう*3が、素人の大胆さでばっさり一言で言えば「国の法律や基準にないことを地方自治体が独自に行おうとしても、税の重課にあたる場合には裁判所が認めてくれないことが多くて難しい」ということになるだう。
考えてみれば当然のことで、やれ地方分権地域主権だと言っても、私人の財産の一部を公権力が強制的に徴収する租税に関するルールが地域によってばらばらでは憲法が保障する法の下の平等に抵触する恐れが大きいのだから、空き家条例と同様には論じることができない。
ここで興味深いのは先に引用した木下氏の文章の次の段落だ。

実際、海外の空き不動産とかの地区再生は地元の地権者が自分たちの資金を拠出して活性化事業を展開するわけです。つまり増税されて、その財源をもとに活性化事業をやるわけです。成果が生まれれば、地権者が得するからです。

これは、おそらくBID(Business Improvement District)制度のことを言っているのだと思う。アメリカ発祥の制度で、日本では大阪市大阪版BID制度検討会で徹底的に検討して、今年2月28日に「大阪市エリアマネジメント条例」が原案可決された*4そうだ。BID税は創設できなかったようで、分担金方式をとることになっている。
たぶん、大阪版BIDには空き店舗所有者へのペナルティはないと思うが、地域全体に分担金を課して重荷を背負わせれば、空き店舗活用のインセンティブになる……かもしれない。
閑話休題
空き店舗に重税を課すためには、やはり地方自治体だけでなく国が動かなければならないと思われるが、今そのような動きがあるのだろうか?
さっき、いろいろ検索してみつけた中心市街地活性化推進委員会の第2回会議で和歌山大学経済学部足立基浩教授が提示した資料では「商業地区商業促進課税(仮称)」が提案されている*5

  • 商業地として有効利用した場合→固定資産税の減免措置
  • 商業地として有効に利用されていない場合(空き店舗の場合)→「商業地商業促進課税(仮称)」を支払う。

これはまさに空き店舗へのペナルティ課税の発想だが、その後公表された中心市街地活性化委員会報告書「中心市街地活性化に向けた制度・運用の方向性」【PDF】をざっと読んだ限りでは、この提案が取り入れられた形跡はない。まあ、経済産業省国土交通省の間の調整だけでもややこしいのに、さらに総務省マターが絡んでくる空き店舗ペナルティ課税を報告書に書き込むことはできなかったのだろう。
この話題、掘り下げればまだまだ興味深いデータや論点が見つかりそうだが、とりあえず今回はこれでおしまい。

*1:もう5年以上前のことなので記憶も定かではないが、ここで概略を箇条書きしてある。もっとも「藻谷氏の説明を忠実に再構成できているかどうかは保証できない」と断っていることにご注意ください。

*2:そもそも法律全般について専門的な勉強をしたことがない。

*3:実際、それぞれの事件名で検索すれば多くの言及例が見つかる。

*4:どうでもいいが、橋下市長が辞職したのは2月27日なので、条例可決は市長不在初日に可決されたことになる。

*5:他の委員や経済産業省国土交通省の資料とともに90ページのPDFファイルにまとめられており、商業地区商業促進課税(仮称)の提案は34ページにある。こういう場合はファイルを分けてもらいたい。