女か虎か

男女トリック*1の作例をみると、「男だと思わせておいて、実は女」「女だと思わせておいて、実は男」という例はあまり多くはない。圧倒的多数が「女だと思わせておいて、実は男」「男だと思わせておいて、実は女」だ。
このトリックの最初期の例である日本のアレ*2も、洋物のアレ*3も、どちらも「女だと思わせておいて……」「男だと思わせておいて……」というパターンだ。また、最近映画化したアレ*4もそうだ。さらに、叙述トリックを捨てネタに使って「逆叙述トリック」を仕掛けた恐るべきアレ*5も。
では、男女トリックにおける男女間の非対称はなぜ生じるのだろうか? そこには何らかの深い理由があるのではないだろうか?
そこで、思い出したのが、初期の密室ものだ。『モルグ街の殺人』も『まだらの紐』も『黄色い部屋の謎』も、みな被害者が女性だ。それはたぶん偶然ではないが、「産業革命以降の欧米ブルジョワジー社会におけるなんたらかんたらにおいて、密閉された部屋という装置はいわゆる一つのどうたらこうたらで……」などといった難しい考察は必要ない。これらの小説のモデルとなった実話*6の被害者が女性だったのだ。現代では、密室殺人の被害者に特に女性が多いということはない。
では、男女トリックの場合はどうか。モデルとなった実話があるという仮説は全く検討する必要もない。そんな仮説は上野の西郷さんにでも食わせるがいい。そこで、もう少しもっともらしい仮説をひねり出したいところだが……以下次回。

*1:ミステリの叙述トリックのうち、登場人物の性別を誤認させるものの通称。

*2:タイトルを逆に読むと……というお遊びのある犯人あて小説。

*3:かつて流布していた訳本には致命的な欠陥があり、マニアの間で地雷本扱いされていた。改訳の際にタイトルの一部を改め、初訳時のタイトルに戻している。

*4:映画は見ていないが、どうやら男女トリックは使っていないらしい。当たり前か。

*5:先に明かされる叙述トリックのほうがメインで、逆叙述トリックはおまけだと解釈する人もいる。仕掛けの大きさを重視するか、前例の有無を重視するかで判断に食い違いが出るようだ。

*6:ただし、作り話だという説もある。