フーダニット万歳!

少女は黄昏に住む (マコトとコトノの事件簿)

少女は黄昏に住む (マコトとコトノの事件簿)

山田彩人は2011年に『眼鏡屋は消えた』で第21回鮎川哲也賞を受賞してデビューした作家で、2012年には『幽霊もしらない』を上梓している。
眼鏡屋は消えた

眼鏡屋は消えた

幽霊もしらない

幽霊もしらない

こうやって書影を並べてみると軽ミステリのように思われるのだが、実はヘヴィー級。前2作とも出だしはライトタッチなのだが、中盤以降は仮説と推測と検証が乱舞するハードバズラーの様相を呈している。トリックよりもロジック重視、しかも犯行手段にかかわる動機の探究を基軸に据えており、都筑道夫が提唱した「モダーン・ディテクティヴ・ストーリー」を継承しているようにも思えるのだが、複数の人間の思惑が入り乱れて複雑化した事件の謎はもはや山沢晴雄の域に達している。こういうミステリは大好きなのだが、もちろん万人受けはしないし、ミステリ愛好家でも評価がわかれるところだろう。
また、両作で事件の謎を解くイケメン探偵、戸川涼介のキャラクター造形がさほど魅力的ではなく、特に『幽霊もしらない』は「就職に失敗し続けているダメ青年が美少女の幽霊(?)に取り憑かれ、彼女に脅迫されながら殺人事件の謎を探る」という設定に全く溶け込んでいない。戸川は出さずに主人公と幽霊のコンビだけにしたほうがよかったのではないかと思ったほどだ。
さて、2013年春に刊行された『少女は黄昏に住む』は少し長めの短篇5作からなる。高校生に見間違えられる童顔の刑事マコトと引きこもりのオタク女子高校生のコトノのコンビが登場し、主に不可能犯罪を解決していくという連作だ。「第一話 ボールが転がる夏」と「第五話 密室の鍵は口のなか」が密室殺人、「第二話 毒入り缶コーヒー事件」が毒薬もの、「第三話 たぶんポオに捧ぐ」が足跡のない殺人で、唯一「第四話 吹雪のバスの夜に」が不可能犯罪を扱っていない。そして、この第四話が最もよく出来ている。フーダニットの傑作といって差し支えない。
他の4作はいずれも犯人側の仕掛けたトリックを探偵側が見破って事件を解決するという構成になっている。トリックだけの小説ではないとわかっていても、やはり明かされたトリックの面白さが小説の良し悪しの判断に影響する。一方、第四話は古典的な「吹雪の山荘」を立ち往生したバスに置き換えたものだが、犯人側にトリックらしいトリックはなく、この状況では当然すぎるほど当然な「なぜ犯人は容疑者が限定された状況で人を殺したのか?」という謎を中心に推理が繰り広げられ、犯人が特定される。この愚直なほどの正攻法が驚くほど効果を上げている。先ほど「フーダニットの傑作」と評したのはそのためだ。
細かな点で気になったところはいくつもあるが、減点法評価にも十分耐えうる作品集だと思われるので、謎解き小説が好きな人はぜひご一読を。