24時間推理できますか?

ルパンの消息 (カッパノベルス)

ルパンの消息 (カッパノベルス)

時効完成まであと24時間という極限状態で15年前の殺人事件の謎に挑む刑事たちの姿を描いたタイムリミットサスペンスの傑作。
そして、過ぎ去った高校生活を回想する青春小説でもある。
時効を扱ったミステリといえば、誰だって『生存』(生存―LifE (1) (アッパーズKC (66))/生存―LifE (2) (アッパーズKC (68))/生存―LifE (3) (アッパーズKC (73)))を連想する*1ことだろう。もっとも両者の間には設定に大きな差がある。たとえば、『生存』は基本的に民間人が一人で謎を追っていく話だが、『ルパンの消息』は警察機構が巨大な権力をフル活用して捜査を進める。その分サスペンスが弱くなるかといえば、さにあらず。持ち時間が極端に少ないという制約により、一分一秒の経過の重みがのしかかってくるのだ。*2
『ルパンの消息』のこの設定は単にサスペンスを盛り上げるだけでなく、古典的な探偵小説がもっていた機知と推理による謎解きの面白さを再現するためにも機能している。舞台となる警察署は、いわば時間の嵐が吹きすさぶ雪の山荘であり、孤島である。多くの証拠は15年前に失われ、今からローラー作戦を展開する時間的余裕はない。捜査官は事件関係者の証言に耳を傾け、あたかも安楽椅子探偵のように推理するのだ。*3読者への挑戦状を挿入するタイプの厳格なパズラーではないが、捜査官の手持ちのデータが常に読者のそれと一致するという意味で、きわめてゲーム的なミステリである。
ただ、残念ながら『ルパンの消息』は手放しの傑作というわけではない。致命的な欠点はないが、いくつか弱点がある。私見では、時効までたった一日という状況を人為的に作り出した動機が弱かったように思う。動機といえば、犯行動機は非常に突拍子もないもので、全く受け入れられない人もいるだろう。ただ、これも個人的な意見になるが、犯行動機はただ不自然だというのではなくて独創的な奇想があらわれているので、これはこれで評価したいと思う。
現代を舞台にミステリを書こうとすると、どうしてもメルヘンになる。*4『ルパンの消息』もまたメルヘンである。現実性と幻想性とのバランスが非常に見事な現代のメルヘン。作中、たった一度も「警視庁」と呼ばれない警視庁、元刑事のホームレス、そしてルパン三世。細部の工夫やエスプリが、あり得ない世界を支えている。
ほろ苦くて、爽快なこの物語を、鬱陶しい梅雨どきの暑気払いにぜひどうぞ。*5

*1:これは挑発的言辞であり、文字通りすべての人のことを指しているわけではない……などと書いてしまうと挑発にならないか。

*2:『生存』もラストシーンに至ると分刻みの攻防が繰りひろげられるが、途中までは時間切れの緊張感よりりも情報整理の快感のほうが勝り、どことなく鮎川哲也的でもある。

*3:これは極端な言い方で、実際には並行して証拠調べもやっている。

*4:確か天城一がそんな指摘をしていたはずだ。

*5:なお、作中の季節は真冬だ。