流し読みではわからない

アヒルと鴨のコインロッカー (ミステリ・フロンティア)

アヒルと鴨のコインロッカー (ミステリ・フロンティア)

伊坂幸太郎は苦手な作家だ。
初期の『オーデュボンの祈り (新潮文庫)』と『ラッシュライフ (新潮文庫)』の2冊を読んだが、どちらも全然肌に合わなかった。プロットも人物造型もあまり好きではないのだが、いちばん気になるのは文章だ。洋物の映画みたいな台詞回しが鼻についてげんなりしてしまうのだ。
同じく海外映画に大きく影響を受けているという思しい作家に東川篤哉がいる。東川篤哉の文章が鼻について耐えられないと述べている人も多いのだが、こちらはさほど気にならない。じゃあ、なんで伊坂幸太郎のほうは受けつけないのか。それは自分でもよくわからない。感性の問題としか言いようがない。
ともあれ、伊坂幸太郎は苦手な作家だ。
さて、今日読んだ『アヒルと鴨のコインロッカー』は東京創元社ミステリ・フロンティアから出た本だ。このシリーズはこれまでに5冊読んだが、みな水準以上の作品ばかりで面白かった。そんなシリーズの中に伊坂幸太郎が含まれているということ(しかも第1回配本作品だ!)が少し不思議なようで、以前から気にはなっていた。これまでの経験から察する限り、『アヒルと鴨のコインロッカー』も面白いに違いないのだが……。
もう一つ、気になっていたのは、ある読書系サイトの『アヒルと鴨のコインロッカー』評だ。以下、全文を引用する。

▼書きたかったのは伊坂幸太郎アヒルと鴨のコインロッカー』(東京創元社)のことで、この作品、初読時は佳作だが、再読すると傑作になるという厄介な作品である。だからぜひ再読してください。ということで、寝る。
郭公亭讀書録はこの文章を含む2003/11/25付の記事のみを残してすべての記事が削除されてしまっているので、今となっては参照できないのだが、かつてミステリ系では非常に有名なサイトで、かつその評価には定評があった。実際、郭公亭讀書録で薦められた本を読んで失望した試しがない。ということは『アヒルと鴨のコインロッカー』もまた期待を裏切られぬ傑作ということになるのだが……。
以上、二重の意味で気にはなっていたのだが、ライトノベル中心の読書生活の中で延び延びの先送りになっていて、ようやく今日になって手をつけた次第。
さてさて。
上記2冊に比べれば文章への抵抗はやや少ないが、それでも伊坂幸太郎独特の癖はやっぱり肌に合わない。飛ばし読みができない性分だが極力流し読みするように、文章表現を意識しないように、と心がけた。その成果あって、途中で投げ出さずに読み終えることができた。また一つ自信が戻ってきた。
で、感想だが「やっぱり伊坂幸太郎だった」という思いが半分、「ああ、もっと真面目に読んでおけばよかった」という後悔が半分といったところだ。きっと「再読すると傑作になる」という郭公亭氏のコメントは正しい。これは流し読みでは真価がわからないだろう。
でも再読はしない。読み返して「これは傑作だ!」と叫ぶことになるのは腹立たしいから。