読書系ウェブサイトと本の売れ行きについて

このあたりから思いついた話。
昔から*1ネット上の本の感想は本の売り上げにどの程度影響あるのかという問題がときどき話題になる。結論はいつも同じで「わからない」となる。理由は主にふたつ。

  • 本の売り上げの推移についての広範囲かつきめ細かなデータがないか、またはあったとしても議論に適した形では提供されていない。
  • 適切な統計データがあったとしても、ネット上の書評や感想文が人の読書または本の購買行動にどのような影響を与えるかの基礎研究がないため、因果関係と相関関係の区別がつかない。

そういうわけで、「たぶん」とか「おそらく」とか「もしかしたら」とか「そうだといいな」という類の発言ばかりが積み重なる不毛な議論が展開され、結局、先に述べたように「わからない」で決着してしまうのが常だ。
そのことを念頭に置いて、以下の「ストーリー」をお読みいただきたい。
数年前、たぶん2002年か2003年頃に某出版社の関係者から聞いた話をまとめる。

  1. ネット上で話題になっている本と実際に売れている本の間には大きなずれがあり、ネットで評判だからといって本が売れるということはほとんどない。従って、ネットが本の売り上げに与える直接的な影響力はほぼ無に等しい。
  2. しかし、ネット上で話題になっていることがきっかけで、プロの書評家がその本を新聞や雑誌などの紙媒体で取り挙げるということはよくある。紙媒体の書評は本の売り上げに影響をもつので、その意味においては、ネットは間接的な影響力をもつことがあり得る。
  3. 以上は一般論だが、これはライトノベルにはあてはまらない。なぜなら、一般文芸やマンガとは違って、ライトノベルには紙媒体で書評や本の紹介をする場がほとんどないからだ。従って、ライトノベルに限れば、ネットの影響力は直接的にも間接的にも無視できる。

その後、2004年頃のいわゆる「ライトノベルの『発見』」を経て、上記3の事情は大幅に変わった。さらに「ハルヒ以後」の一般オタク層へのライトノベルの浸透が事実だとすれば*2さらに事情が異なっているのではないかとも推測できる。
とはいえ、冒頭で断ったとおり、実証的な話をするにはあまりにもデータが乏しすぎる。結論は、やっぱり「わからない」ということになるだろう。もしかしたら、業界内部の人々の間では、もうある程度の見通しがついているのかもしれないが。

追記

これは上の区分でいえば間接的な影響力の例だが、少なくとも上記「ストーリー」の反例であることは確かだと思われる。

*1:といってもインターネットがある程度普及しはじめた1990年代後半以降のことだが、

*2:そのような事実があるのかどうかは、さらに慎重に検討する必要があるだろう。