限界集落の水源

山村環境社会学序説―現代山村の限界集落化と流域共同管理

山村環境社会学序説―現代山村の限界集落化と流域共同管理

限界集落」という言葉は今では誰でも*1知っているが、その出自を即答できる人は稀だろう。
少し前のウィキペディアには、こんな記述があった。

長野大学教授(高知大学名誉教授)である大野晃が、高知大学教授時代の1991年(平成3年)に最初に提唱した概念と言われている。

「と言われている」ってどうよ、と思っていたのだが、今の版では断定調になっている。

長野大学教授(高知大学名誉教授)である大野晃が、高知大学人文学部教授時代の1991年(平成3年)に最初に提唱した概念である。

で、初出は? あちこちの雑誌や新聞の特集記事で「限界集落」という言葉が出てくるのに、どこにも最初にこれらの言葉が用いられた論文のタイトルが書かれていない。ただ、どこだったか忘れたが、限界集落を特集した雑誌に大野教授が寄稿した文章の中に、この言葉は16年前に書いた論文で用いたものだということと、『山村環境社会学序説』第2章を参照するように、ということが書かれていた。
そこで、図書館に行って、『山村環境社会学序説』を調べてみると、その第2章「現代山村の高齢化と限界集落」の初出が新日本出版社の『経済』1991年7月号で、原題は「山村の高齢化と限界集落」だと書かれていた。たぶん、これが「限界集落」の初出論文なのだろう。
ただ、『山村環境社会学序説』第2章を読んでみると、どうも「さあ、これから『限界集落』という新しい言葉を使ってやるぞ」という意気込みのようなものが感じられない。というか、「限界集落とは何か」という説明すらほとんどなく、ただ淡々と限界集落の状況について書いている。本にまとめる際に重複する箇所を削除したのかもしれないが、序章にも第1章にも明確な規定がない*2のが不思議だ。
ところで、「限界集落」に似た言葉に「限界自治体」という言葉がある。これも大野教授が作った言葉のようだ。『山村環境社会学序説』でも何度か出てくるが、日本農業新聞1991年11月12日掲載の「限界自治体考」という文章が初出のようだが、現物を見ていないので断言できない。さすがに、日本農業新聞はそこいらの公共図書館には置いていなさそうだし、専門図書館を訪ねて調べるほどの意欲も根気もない。今のところは謎のままにしておくしかないようだ。

*1:といっても、文字通りすべての人が知っているというわけではない。「誰でも」というのは言葉の綾です。

*2:ただし、序章に掲げられた「第0-1図 現代山村の分析手法とその総括図」の中では「限界集落」という言葉を囲った下に「65歳以上が半数以上・社会的共同の維持困難」という註釈があった。