時代が変われば目のつけどころも変わる

アニメ化も決定したライトノベル狼と香辛料』。

この作品は既に一年前に東京大学佐藤俊樹准教授(比較社会学)が目をつけておりました。

その書評は論座(2007.1)の「2006年 私が選んだこの3冊」で読むことができます。

別にけちをつけるつもりはないのだけれど、この記述には一部不正確なところがある。佐藤俊樹准教授*1が『狼と香辛料』に目をつけたのは一年前ではなく、狼と香辛料』1巻発売直後、つまり今からみればほぼ2年前のことだ*2。その書評は讀賣新聞2006年3月12日の「本よみうり堂」で読むことができる……のだけれど、今から入手するのはちょっと困難だ*3ウェブ版には掲載されていないようだし……。
で、かわりのソースを探しているときに見つけたのが、ぽるちー日記:東大の先生も“萌える”そうです - livedoor Blog(ブログ)という記事だ。今なら、東大の先生が「萌え」という言葉を使ったからといって、さほど驚くことはないだろうが、当時はまだまだインパクトのある出来事だったのだ。他方、『狼と香辛料』なんか、一部のラノベファン(+東大准教授)を除けば、世間一般ではまだ誰も目をつけていなかった。さっきの東京大学准教授がラノベ『狼と香辛料』を「商業」を扱う小説と高評価!! - 生活の残渣と自己の夾雑物を読み比べてみると、時代の流れというものを感じさせられる。
ところで、時代の流れといえば、今この文章を書くのに用いている日本語入力システムはATOK16なのだが、これだと「じゅんきょうじゅ」と入力しても「準教授」と変換されてしまうので、「准将」から「将」を削除して「教授」と続けることで「准教授」にしている。ATOK16が発売されたのは2003年2月28日。当時、もちろん既に「准教授」という言葉はあったのだが、日本国内の教員の職階には採用されていなかった*4ので、非常に使用頻度の少ない言葉だった。また「准」という漢字自体、日常生活ではほとんど使われていなかった。人名を除けば「准看護婦」くらいだったろう。もちろん常用漢字にも入っていない。入っていました。すみません。
その後、「准看護婦」は「准看護師」になり、「准教授」が新設され*5麻枝准はいつの間にかシナリオライター引退表明しているらしい*6し、もう世の中何がなんだかわけがわからない。この調子でいくと、そのうち時間の流れが滝になっているんじゃないか*7と思えてくるほどだ。あれよあれよ。

*1:当時は助教授だったが。

*2:と書いてはみたものの、もしかしたらそれよりもっと前から目をつけていた可能性を全く排除することはできない。たとえば、佐藤氏が電撃大賞の下読みをして応募原稿を読んでいたかもしれず、作者から応募前の原稿を個人的に読ませてもらっていたかもしれない。あるいは、『狼の香辛料』の作者または原作者と目されている支倉凍砂なる人物は実はダミーに過ぎず、真の作者は佐藤氏本人だったのだという可能性もいちおう検討すべきだとほんのちょっとくらいは考えてみるのが知的に誠実な態度を示すことになるのではないかなどという想念がふと頭をよぎったりなんかしちゃったりしてしまうと、ちょっと社会生活に難がありそうなので、しかるべき筋に相談してみたほうがいいかもしれない。

*3:当時、その新聞記事がネットに出回っていて、ここの註21でその書評に言及した際にリンクを張っておいたのだが、さすがにもうリンク切れしている。

*4:「準教授」のほうは国際基督教大学で用いられていた。准教授 - Wikipediaを参照。

*5:それと引き換えに「助教授」は廃止。

*6:もう一年前のことだが、つい今さっき知ったばかりだ。keyのゲームは『AIR』まで追いかけていたが『CLANNAD』をプレイ開始5分後くらいに投げ出してから、すっかり縁が遠くなっている。

*7:筒井康隆の作品にそういうのがあった。タイトルは忘れた。マンガ版しか読んだことがないが、たぶん原作は小説だと思う。