「海域公園」のまぼろし、または讀賣新聞の誤報について

紛らわしい「海域公園」の続き。
この記事を書いたきっかけは、12月16日の讀賣新聞の夕刊一面トップで「海域公園」新設を報じた記事を見た*1からだ。もちろん、その時には記事の内容を全く疑っていなかった。
あれ、ちょっと変だな、と最初に思ったのは、日記を書いている最中のことだった。「海域公園」で検索してみても、讀賣新聞以外の記事が見あたらなかったのだ。なんでほかの新聞社は報道していないのだろう? だが、たぶん讀賣新聞のスクープだったのだろうと勝手に解釈してしまい、環境省 報道発表資料すらチェックしなかった。
讀賣新聞の記事がどうやら誤報らしいという話を比較的信頼できる情報筋から聞いたのは、それから2日後の12月18日のことだった。ただ、環境省の公式発表ほど信頼できるというわけではない*2し、讀賣新聞誤報を認めた記事を掲載ないし配信したわけでもないので、まだ讀賣新聞が誤った情報を流したと即断できない。
ただし、この段階で、讀賣新聞の記事の中に明らかな誤りが含まれていることを確認している。それは、

国立・国定公園区域には、日本の領海の4%にあたる約170万ヘクタールの海域が含まれるが、そのほとんどは、届け出れば埋め立てなどの大規模開発ができる「普通地域」だ。公園区域には開発に規制がある「海中公園」も65か所あるが、対象区域は海中だけで、ごく狭い面積に限られていた。

という箇所だ。実は海中公園地区の数は65ではない。環境省自然保護各種データから国立公園海中公園地区一覧(【Excel】/【PDF】)を見ると、今年3月31日現在で38地区、国定公園海中公園地区一覧(【Excel】/【PDF】)では同じく今年3月31日現在で31地区となっている。国立・国定公園をあわせれば69地区だ。
それはともかく、本題の「海域公園」についてはもう少し様子をみることにした。
そして、12月19日、すなわち今日のことだ。環境省からこんな発表があった。

 中央環境審議会自然環境部会自然公園のあり方検討小委員会において、この度「自然公園法の施行状況等を踏まえた今後講ずべき必要な措置について(報告書案)」が取りまとめられました。

 つきましては、本案について、広く国民の皆様から御意見をお聴きするため、平成20年12月19日(金)から平成21年1月19日(月)までの間、以下のとおり御意見の募集(パブリックコメント)を実施いたします。

別の報道発表資料に

 12月16日(火)に、中央環境審議会自然環境部会自然公園のあり方検討小委員会(第9回)を開催します。

と書かれていて、日付からも内容からも、この「中央環境審議会自然環境部会自然公園のあり方検討小委員会」という長ったらしい名称の小委員会が、讀賣新聞の記事の

 16日の中央環境審議会小委員会で法改正に向けた報告書案をまとめ、来年の通常国会への提出をめざす方針だ。

ここで言及されている小委員会と同じものであることは間違いない。しかし、自然公園法の施行状況等を踏まえた今後講ずべき必要な措置について(報告書案)【PDF】を見ても「海域公園」などという言葉はどこにもない。
もちろん、事務局が小委員会に提示した原案には「海域公園」という言葉が入っていたが小委員会の場で削除されたということも、純粋に論理的な可能性においてはあり得ないわけではない。だが、人は論理のみによって生くるに非ず。そんな可能性はサンゴ礁に捨ててオニヒトデの餌にでもしたほうがましだ。
そういうわけで、16日の讀賣新聞の記事は誤報であると断定することにした。「いや、それではまだ根拠不足だ」と思う人は、中央環境審議会自然環境部会自然公園のあり方検討小委員会(第9回)の配付資料と議事録がアップロードされるまで判断を留保しても構わない。
ただ、いくつかのウェブログで既に「海域公園」を既定事項として言及している*3ので、この話題に関心のある人に注意を喚起するために、このタイミングで取り上げることにした次第。なお、誤情報の流布は慎むべきことだが、この件で特に讀賣新聞を非難する意図はないので念のため。

*1:逐語的に確認したわけではないが、たぶん「海の国立公園」新設、開発・動植物採取を規制…環境省 : 環境 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)と同じ記事のはず。もしかしたら版によっては一面トップではなかったかもしれない。

*2:当たり前だが、どんなに信頼できる情報筋でも、一次情報の発信元より信頼できるわけがない。

*3:その中には紛らわしい「海域公園」も含まれる。