阿久根市のシャッターアートは街を飛び出し漁港アートへと進化する

西日本新聞の記事では「占有許可」となっているが、毎日新聞讀賣新聞では「占用許可」となっている。鹿児島県漁港管理条例第4条をみる限り「占用許可」のほうが正しい*1
市民団体が県に要望した内容は西日本新聞では「占有許可を取り消す」こと、讀賣新聞では「一時的に撤回する」こと、毎日新聞では「撤回」となっている。どれが正しいのかは要望書を見ないとわからないが、なんとなく「一時的に撤回」という法的には意味不明なフレーズが使われていそうな気がする。
事業費の出所に違法性があるという疑いがでてきたことを理由に一度出した許可を取り消したり(一時的に)撤回したりすることが可能なのかどうか*2というのは行政法の問題としては興味深いかもしれないが、その辺りのことは専門家に任せておくことにしよう。
それよりも上の記事で疑問を抱いたのは、防波堤に絵を描いたら占用なのかということだ。ふつう占用といえば、工作物を設置したり、区画を囲って他者が立ち入れないようにしたりすることだ。防波堤に絵を描くという行為は物理的にいえば、コンクリートに画材を付着させるということに過ぎないので、果たして占用とみなしていいものかどうか。もっとも、いったん絵を描いた場所にはその絵を毀損することなしに他の絵を描くことはできないので、排他的独占的に一定のスペースをめていることになるので占用といえば占用と言えなくもないのかもしれない。それに、厳密な意味では占用ではないにしても、許可なく勝手に防波堤に絵を描いていいわけではないだろうし、鹿児島県漁港管理条例で漁港施設を「使う」ための許可規定は第4条の占用許可と第4条の2の使用許可しかなく、使用許可は明らかに変だから占用許可規定を用いるしかない、という考え方もできるかもしれない*3
もう一つ、疑問を抱いたのは、そもそも漁港の防波堤って絵を描いていい場所なのかということだ。そこで、鹿児島県屋外広告物条例をみると、漁港施設は屋外広告物*4を表示してはならない禁止地域に該当する*5ことがわかった。また同じ条例の第4条第1項第2号では「石垣,擁壁その他これらに類するもの」が禁止物件とされている。「これらに類するもの」の中に防波堤が含まれると解釈できるのかどうかはわからないが、もしそのように解するなら、漁港の防波堤は禁止地域内の禁止物件ということになる。
ところが、鹿児島県屋外広告物条例第6条第1項第2号で「国及び地方公共団体が公共的目的をもつて表示し,又は設置する広告物又は掲出物件」については、第3条から第5条までの規定を適用しないことになっている。つまり、禁止地域であれ禁止物件であれ、地方公共団体である阿久根市が「公共的目的をもつて」絵を描くのは差し支えない。シャッターアートや漁港アートの趣旨が地域活性化にあるのだとすれば、公共的目的があることになるから、鹿児島県屋外物広告条例の規制によらずに絵を描ける。ただし、どんな絵でも勝手に描いていいわけではなく、面積10平方メートルを超える場合は予め知事に届け出なければならない*6シャッターアートはともかく、漁港アートは10平方メートルを超えるので、届出が必要だが、届け出たらどうなるのかといえば、別にどうにもならないようだ。また、届け出なくても罰則も行政処分も何もない。何それ?
ちなみに、鹿児島県屋外広告物条例に基づき県が行う事務の大半は鹿児島県事務処理の特例に関する条例により市町村が処理することとなっている。その中には「条例第6条第1項ただし書の規定による国又は地方公共団体からの届出の受理」というのも含まれているわけでして……。

追記(2010/08/06)

阿久根市竹原信一市長が、阿久根漁港にある県所有の防波堤に絵を描く事業費を専決処分した問題を巡り、事業に反対する市民団体が防波堤の占用許可取り消しを県に求めた問題で、県は4日、「取り消しには応じられない」と回答した。

【略】

同課は「専決処分と許可条件は直接関係なく、取り消し要件にあたる違反はない」としている。

まあ、そりゃそうだ。

*1:第2条には「占有」という用語が用いられているが文脈が異なる。

*2:鹿児島県漁港管理条例第14条第3号に「偽りその他不正な手段により」占用許可を受けた者に対して、その許可を取り消すことができるという規定があるが、これを取消事由にするのはかなり無理筋ではないだろうか。

*3:しかし、この考え方に対しては「別に条例の規定に基づかなくてもいいのではないですか?」と問い返してみたくなる。防波堤に勝手に絵を描いてはいけないのは、それが県有漁港施設だからではなく、そもそも他人の持ち物に勝手に絵を描いてはいけないからではないだろうか。商店街のシャッターに絵を描く際には当然商店の承諾をもらっているはずだが、その際、条例や法律の規定に基づく「占用許可」という形をとっているわけではないだろう。

*4:社会通念上、「広告物」とは主に営利事業の宣伝のために事業内容や商標などを表示する物のことで、阿久根市のシャッターアートなどはふつう「広告物」とは呼ばないが、屋外広告物法では、営利かどうかとか表示内容が事業の宣伝になっているかどうかにかかわらず、「常時又は一定の期間継続して屋外で公衆に表示されるものであつて、看板、立看板、はり紙及びはり札並びに広告塔、広告板、建物その他の工作物等に掲出され、又は表示されたもの並びにこれらに類するもの」を「屋外広告物」と呼んでいるので、字面を素直に読めばシャッターアートの類も屋外広告物ということになる。

*5:鹿児島県屋外広告物条例第3条第15号及び鹿児島県屋外広告物条例施行規則第2条の2第5項第3号を参照されたい。

*6:鹿児島県屋外広告物条例第6条第1項ただし書及び鹿児島県屋外広告物条例施行規則第4条第1項参照。