先生! 認可制と許可制はどこが違うんですか?

 2000年代になって鉄道の廃止が顕著になった理由は2つある。

 1つは、1999年3月1日の鉄道事業法改正である。それまで鉄道の路線敷設は国の認可事業であり、廃止する際にも国の認可が必要だった。鉄道会社が赤字路線を廃止したくても、地元自治体などが反対したり、事業主が黒字だったりした場合は認可されなかった。しかし、鉄道事業法の改正以降は認可制ではなく許可制となった。鉄道会社が路線を廃止したい場合、国土交通省に届出を出せば許可される。届出は「廃止日の1年前に提出すること」と定められたため、届出から廃止までは1年間の猶予がある。しかし、その路線の利用者、関係者に異議がない場合は廃止日の繰り上げも可能だ。鉄道事業法が改正された1999年3月1日の1年後は2000年の3月1日である。したがって、2000年3月以降、鉄道路線の廃止が急増した。

「届出を出せば許可される」というのは変な言い方だと思った。許可を求めるなら届出ではなく許可申請が必要だろう。
そこで、鉄道事業法の、鉄道の廃止にかかる条文を見てみることにした。
以下、法なび法令検索による。法規独特のインデントの再現は面倒なので行っていない。ご了承ください。
まず、鉄道事業法制定時の条文。

(事業の休廃止)

第二十八条 鉄道事業者は、鉄道事業の全部又は一部を休止し、又は廃止しようとするときは、運輸大臣の許可を受けなければならない。

2 運輸大臣は、当該休止又は廃止によつて公衆の利便が著しく阻害されるおそれがあると認める場合を除き、前項の許可をしなければならない。

次に1999年の大改正。

第二十八条を次のように改める。

(事業の休止)

第二十八条 鉄道事業者は、鉄道事業の全部又は一部を休止しようとするときは、あらかじめ、その旨を運輸大臣に届け出なければならない。

2 前項の休止の期間は、一年を超えてはならない。

第二十八条の次に次の一条を加える。

(事業の廃止)

第二十八条の二 鉄道事業者は、鉄道事業の全部又は一部を廃止しようとするときは、廃止の日の一年前までに、その旨を運輸大臣に届け出なければならない。

2 運輸大臣は、鉄道事業者が前項の届出に係る廃止を行つた場合における公衆の利便の確保に関し、運輸省令で定めるところにより、関係地方公共団体及び利害関係人の意見を聴取するものとする。

3 運輸大臣は、前項の規定による意見聴取の結果、第一項の届出に係る廃止の日より前に当該廃止を行つたとしても公衆の利便を阻害するおそれがないと認めるときは、その旨を当該鉄道事業者に通知するものとする。

4 鉄道事業者は、前項の通知を受けたときは、第一項の届出に係る廃止の日を繰り上げることができる。

【略】

附 則

(施行期日)

第一条 この法律は、公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。

この法律の施行日を定めた政令は残念ながら探し出せなかったが、かわりにこういうのを見つけた。

附 則 (平成一二年三月一日運輸省令第七号)

(施行期日)

第一条  この省令は、鉄道事業法の一部を改正する法律(平成十一年法律第四十九号。以下「改正法」という。)附則第一条の政令で定める日(平成十二年三月一日)から施行する。

というわけで、上の大改正の施行日は2000年3月1日だとわかった。
ちなみに、現行法の条文は次のとおり。

(事業の休止)

第二十八条  鉄道事業者は、鉄道事業の全部又は一部を休止しようとするときは、あらかじめ、その旨を国土交通大臣に届け出なければならない。

2  前項の休止の期間は、一年を超えてはならない。

(事業の廃止)

第二十八条の二  鉄道事業者は、鉄道事業の全部又は一部を廃止しようとするとき(当該廃止が貨物運送に係るものである場合を除く。)は、廃止の日の一年前までに、その旨を国土交通大臣に届け出なければならない。

2  国土交通大臣は、鉄道事業者が前項の届出に係る廃止を行つた場合における公衆の利便の確保に関し、国土交通省令で定めるところにより、関係地方公共団体及び利害関係人の意見を聴取するものとする。

3  国土交通大臣は、前項の規定による意見聴取の結果、第一項の届出に係る廃止の日より前に当該廃止を行つたとしても公衆の利便を阻害するおそれがないと認めるときは、その旨を当該鉄道事業者に通知するものとする。

4  鉄道事業者は、前項の通知を受けたときは、第一項の届出に係る廃止の日を繰り上げることができる。

5  鉄道事業者は、前項の規定により廃止の日を繰り上げるときは、あらかじめ、その旨を国土交通大臣に届け出なければならない。

6  鉄道事業者は、鉄道事業の全部又は一部を廃止しようとするとき(当該廃止が貨物運送に係るものである場合に限る。)は、廃止の日の六月前(利用者の利便を阻害しないと認められる国土交通省令で定める場合にあつては、廃止の日の三月前)までに、その旨を国土交通大臣に届け出なければならない。

このほか、運輸大臣から国土交通大臣への変更にかかる法改正もあるが、煩雑なので省略する。
以上のまとめとしては、2000年3月1日より前には鉄道事業を廃止するためには大臣の許可を受けなければならなかったが、それ以降は届出*1だけで足りるようになったということだ。素直に考えれば許可制から届出制に移行したということだろう。
もっとも、

講学上は「認可」に分類されるものでも、法令上「許可」と呼ばれている行政行為がある。

とか

後掲の例のように、行政法上の特許にあたる行政行為は、法律の文言上、「特許」のみならず「許可」、「免許」、「任命」など、様々な用語で表記される。このうち、「許可」、「免許」は、行政法学上の許可の意味で用いられることもある。

などという落とし穴があるので注意が必要だ。というか、注意したからといって、法律の文言としての「許可」が「許可」なのか「特許」なのか「認可」なのかがわかるというわけではないのが悩ましい。
ちなみに、1999年の大改正時に、鉄道事業法の「免許」が一斉に「許可」に置き換わっているのだが、いったい「免許」と「許可」はどう違っているのか?

法学において、免許とは、一般に禁止・制限されている行為を行政機関が特定の人に対して許すことや、特定の人に権利を定めて地位を与えることである。講学上の概念としては、許可と特許の双方を含む。

法律上の文言では、資格(許可、特許)のことを、講学上の概念とは別に、免許という語が使用されている場合がある。

ダメだ……ウィキペディアでは全く歯が立たない。
ちなみに軌道法では、事業を始めるときには「特許」、休止や廃止のときには「許可」が必要となっている。

*1:動詞だと「届け出る」なのに、名詞だと「届出」となり、間の「け」が抜けるのが変な感じがする。