意外と面白い『狼と香辛料 XII』

狼と香辛料〈12〉 (電撃文庫)

狼と香辛料〈12〉 (電撃文庫)

今回も意外と面白かった。最後まで読めば。
いつものことながら序盤から中盤までのペースがのろいこと、のろいこと。ロレンスの心理の動きと、ロレンスが忖度した他のキャラクターの心理の動きをこれでもかこれでもかとばかりに執拗に書き連ねるものだから、長くならないわけがない。そういうものだと割り切って読めば退屈することもないが、字面をなめるようにして読んでいくとどうしても時間がかかるし、長し読みなら気づかないまま通り過ぎたはずの、意味が掴み取りにくい記述やひっかかる描写で立ち止まってしまう。立ち止まったままでは挫折してしまいそうになるので、勇気(?)を振り絞って先に進むこと数回、ようやく210ページに至り、物語が加速し始める。本文の最終ページが285ページだから全体の4分の3を過ぎた頃だ。
ここから怒濤のように白いモノが押し寄せて事件が落着するまでの畳みかけ*1は見事だ。ああ、そういえば10巻も白いモノが押し寄せて事件が落着する話だった*2が、もしかしたら作者の心象風景の中に固着した映像的イメージの反映*3だろうか?
繰り返される「終末の遅延」には読者もそうだが作者も飽きてきているところだと思う*4ので、次巻では怒濤の急展開を見せてくれるものと期待しよう。
えっ? 雑誌などに掲載した短篇が溜まっているから次は「Side Colors III」だろう、って? んむ、それはあり得るかも。

*1:ここで足踏みして分厚い描写で塗り固めたらボロが出るから急ぐ必要がある、という事情によるものかもしれない。

*2:ただし、人物の配置も事件の構図も全然違うので、この共通点だけを捉えて同工異曲と評するのは的外れだろう。

*3:適当に言葉を並べたが、実のところよくわからないる精神分析ないし構造主義に通じた人の怜悧な吟味を期待したい。

*4:でも版元は飽きないだろう。「飽きない」は「商い」の基本だよっ!