ミートリックスからアグロエコロジーへ

……やたらとオタクくさい本だった。
タイトルに含まれる「新世紀」というフレーズが目に留まり、本を手にとってカバー裏をみると、

石油が枯渇すれば、食糧危機が訪れる。
私たちを包囲する食糧問題の嘘をあばき
途上国から発信される持続可能な農業で
石油にかわる「人類資源補完計画」を!

と、いかにもアレなことが書いてある。そこでぱらぱらと本をめくってみると、『北斗の拳』や『機動戦士ガンダム』『デビルマン』などの絵が掲載されている。
本題とは関係なく、マンガやアニメの話題を盛り込んだ本というのは結構あるが、概してオタク文化の潮流を見誤った、ピントはずれの引用・言及に留まっているものだ。この本も例外ではない。「新世紀」なのに、出てくるネタはほとんど1990年代以前のもので、そのギャップに寂寥感を禁じえない。
だが、この本は別にオタク文化論を扱ったものではないから、そのような観点から批判するのは不当だろう*1。「『エヴァ』以後」のことを知りたければ、『セカイ系とは何か ポスト・エヴァのオタク史』でもよめばいいのだ*2。本題、すなわち農業と食糧問題について評価すべきなのだ……が、正直いって、そっち方面にはかなり疎いので、この本で紹介されている事例の信憑性や、それらの事例をもとになされている主張の妥当性については何とも判断ができない。
とりあえず、この本のエッセンスと思われる、「世界飢餓の神話と真実」と題された表*3を紹介し、読者諸氏の賢察に委ねることにしよう。

神話 真実
食料が足りない 食料はあまっているのに多くの人々は貧しくて買えない。飢餓は貧しい国々から食料が輸出されるため。
飢饉の原因は旱魃や凶作等の自然災害 凶作時の飢饉はお金持ちが食料を買い占めて値段をつりあげるため(80年代の旱魃でサヘル諸国の人々が餓死した時も国の農作物輸出は増えていた)。
人口抑制が必要 人口増加率は減少傾向。人口と飢餓は比例しない。
食料の増産は環境を破壊する 環境破壊の原因の多くは、企業や大農場経営者が切り開いた輸出用の牧場や大豆畑による。伝統的な農法や有機農業なら環境を破壊せずに食料が生産できる。
緑の革命こそが飢餓の解決策 緑の革命」で生産量は増えたが、土壌の劣化や病害虫被害も増加。また食料が増えてもお金持ちが儲かるだけで貧しい人々はさらに飢餓に直面する。技術を活用しても貧富の差を放置すれば飢餓は解決されない。
農業の大規模化を進めるべき 持続的な小規模農法の方が全体の生産性は高いことが分かっている。
自由市場を通じて飢餓をなくすことができる 市場経済は効率的だが、人々が平等に食料を買えなければ飢餓はなくならない。民営化や規制緩和は解決策ではない。
自由貿易が飢餓の解決策 自由貿易を進めると国境を越えた最低賃金・最悪の労働条件への競争が始まる。結果として競争に負けた人々が飢餓に陥る。
先進国からの援助をもっと増やすべき 援助は飢餓を減らすどころかむしろ悪化させている。援助は飢えた人には届かず、国内自給を犠牲にした輸出促進に使われる。
今の先進国の豊かな生活を維持するには貧しい人々が餓えても仕方がない 開発途上国の人々が豊かになっても、大多数の先進国の暮らしは脅かされない。開発途上国の貧しい人々が低賃金で働くことで、企業は安い労働力を求めて海外に向かうため、低賃金競争が起こり、結果、先進国の雇用や賃金条件も脅かされる。

最後に、この本の著者のウェブサイトも紹介しておく。

*1:ついでに言えば、演繹法帰納法KJ法を同列に並べて紹介しているのもどうかと思ったが、この本は科学方法論を主題としているわけではないので、その点についての批判も差し控えておく。

*2:と言いつつ、まだ序章しか読んでいないので、果たしてどの程度実情を適切に把握しているのかは未確認だ。最近出た本なのでタイトルを挙げてみただけ。

*3:148ページ。これは著者のオリジナルの主張ではなく、ピーター・ロゼット博士の著書の内容をまとめたものだそうだ。