ポケミス末期の傑作

機械探偵クリク・ロボット〔ハヤカワ・ミステリ1837〕 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

機械探偵クリク・ロボット〔ハヤカワ・ミステリ1837〕 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

現代はカミ不在の時代である。「カミは死んだ!」などとことさら叫ぶまでもない。新刊書店で彼の著書を見かけなくなって久しい。もしかすると『エッフェル塔の潜水夫』はまだ生きているのかもしれないと思ったが版元にも在庫がないようだ。面白い小説なのになぁ。
そんな末法の21世紀に突如現れた『機械探偵クリク・ロボット』とはいかなる小説か。オビの惹句はこうだ。

愉快! 痛快! 機々械々!!
堂々本邦初紹介! 人類史上に前例なし!
機械の力で謎を解く、ぼくらのヒーロー颯爽登場

本当に「人類史上に前例なし」かどうかは知らない*1が、無生物探偵ものとしては極めて初期の作例であることに間違いはないだろう。この本に収録されている2篇のうち「五つの館の謎」は1945年の作、もう1篇の「パンテオンの誘拐事件」は1947年の作だそうだから、クリク・ロボットはゼニガタや鞠小路鞠夫*2の大々先輩ということになる。
まあ、そんなミステリ史のお話はどうでもいい。『機械探偵クリク・ロボット』は混迷の現代を生きる我々にぴったりの素晴らしく愉快で面白いミステリなのだから。これまで日本で紹介されていなかった*3のが不思議なくらいだ。もしかしたら、さわらぬカミにたたりなし、とばかり敬遠していたのかもしれないが、なんとももったいないことだ。
クリク・ロボットものはこの本に収録されている2篇しかないようだが、著作リストをみると未訳の作品がまだまだあるし、既訳作品にしても今では入手困難になっているのだから、ぜひこれからも続けてカミの作品を紹介してほしいものだと思う。
ところで、今この文章を書いている段階ではハヤカワ・ミステリの7月刊行予定が出ていない魚拓)。毎月1冊ずつほそぼそと出ていた天下のポケミスも、もはやこれまでか。それともなんらかの新展開のための準備のため近刊案内が遅れているだけなのか?

*1:余談だが、版元の紹介ページではオビの惹句からこのフレーズだけが省略されている。

*2:前者は内田康夫が、後者は我孫子武丸がそれぞれ生んだ無生物探偵の名。

*3:正確にいえば「五つの館の謎」は昨年ハヤカワミステリマガジンに掲載されている。