この幸福な人口減少をいつまでも

人口が減少するということはいいことなのか、悪いことなのか。突き詰めて考えれば価値観次第ということになるだろう。つまり、物事はあまり突き詰めて考えないほうがいいということだ。
人口が右肩上がりに増えていくことを前提に社会が構成され制度が運用されているときに人口減少が発生すると、さまざまな問題が発生する。今の日本がまさにその状態だ。これはかなり困ったことだ。
しかし、考えてみれば、今の日本が直面している人口減少はどちらかといえば幸福な人口減少なのではないだろうか。というのは、戦乱、疫病、災害、飢餓などが原因で不幸な人口減少が生じた例は歴史上数多い。これまで人類が潜り抜けて来た悲惨な歴史を振り返るたびに、「ああ、よかった」と胸をなでおろしたくなる。
だが、油断は禁物だ。なるほど、今の日本の人口減少は高齢化に伴う死亡者数の増加に出生が追いついていないという平和な事情によるものだが、このままジリ貧状態が続けばやけになって戦争を望む人が増えて災厄のもとになるかもしれない。または、経済的・文化的体力の減退が疫病や災害への抵抗力を弱めてしまうかもしれない。円高続きで長期不況が到来し、その結果、円が見切られて逆に円安になり、海外からの食糧調達が困難になって、低所得層を中心に慢性的な栄養不良状態になり、それが別の災いを読んで……というような厭な未来を想像してしまう。
今はただ、この幸福な人口減少が不幸なそれに転化することなく、このまま続いてくれることを祈るのみ。
えっ、どうして人口がV字回復することを祈らないのか、って?
はっはっは、ご冗談を。今、もし出生率が急上昇しても、それが出生数の増加に繋がるのはずっと先だということをご存知ないわけでもあるまいに。