某原子力発電所について

最近、その原子力発電所の名称を明記せずに「某原子力発電所」と書くほうがいいのではないかと思うようになった。いや、会社名くらいは書いてもいいだろう。東京電力だ。しかし、その後がいけない。
日本の原子力発電所 - Wikipediaに掲載されている一覧表をざっと見たところ、ほとんどの原発の名称はそれが立地している市町村名に由来している。ところが、某原子力発電所は市町村名ではなく県名を冠している。ほかには中国電力島根原発が同じく県名を冠しているが、こういう名前の付け方をすると、原発が県内に遍在しているかのような印象を与える。
もちろん平時には原発の敷地がのっぺりと県内全域に広がっているなどと思う人はいないだろうが、今は平時ではない。被害が大きかったところもあればほとんど影響がなかったところも県内にはあるのに、原発の名称を挙げただけで否応なしにその県全体へと意識が向けられてしまう。これが風評被害を助長しているのではないか。
理屈のうえでは市町村名を冠した原発でも風評被害は起こりえる。だが、現実には某原発が立地している2つの町村は全域が警戒区域に指定されており、残念ながら風評被害を憂うことすらできないのが現状だ。いずれにせよ現に存在する原発の名称を自分勝手に変えることはできない。個人に可能なのは名称を伏せることだけだ。
風評被害を避けるために名指しするのを控えるという発想は、かつて別の社会問題への対応策としてとられた手法でもあり、それに対しては問題を隠蔽するものだという批判も提起されている。同様に「某原発」などという言い回しに危険な匂いを感じ取る人もいるかもしれない。
そういうわけで、「これからは『某原発』と書くべきだ」と強く主張できず、いま迷っているところだ。だが、その迷いも含めて、ここに書き記しておくことは全く無意味ではないだろう。いや、無意味かもしれないが、有害ではないだろう。いや、有害かもしれないが、それでもほんの少しばかりは見るべき点があるのではないか。いや、全然いいとこなしだというなら、徹底的に批判してください。その批判はきっと有意義なものとなるでしょう。