面白さを味わうために多少の忍耐が必要な場合もある

サイロの死体 世界探偵小説全集 (27)

サイロの死体 世界探偵小説全集 (27)

最近またライトノベルばかり読んでいるので、この辺りで自分に活を入れるつもりで海外古典ミステリを読むことにした。この作品を選んだのは、先日ミステリ愛好家の知人数人にお薦め作品を尋ねたところ、揃って「ノックスはいいよ」と言っていたからだ。
で、読み始めたのだが……しんどかった。読むのが憂鬱だった。中盤まではもの凄く退屈で、いっそ本が消失してしまえばいいと思ったほどだ。しかし、2/3を過ぎたあたりから急にストーリーが暴走を始め、意表を衝かれる展開に動揺した。ひゃー、こりゃ何かの陰謀ですか、ついさっきまでつまらなさに憤慨していたのがまるで嘘のようだ。
ええと、あと残っているのは……「冒険」か。まあ、でもこれはどうでもいいでしょでしょ?
さて、ノックスといえばミステリ読みでその名を知らない人はいないくらい有名な人だ。特に「ノックスの十戒*1がよく知られている。実作のほうでは長篇『陸橋殺人事件 (創元推理文庫)』が最も知名度が高い。これは長門有希の100冊*2にも選ばれている。最近は必ずしもそうではないが、昔はミステリファンを自認する人なら当然読んでいるべき名作だった。また、短篇「密室の行者」*3も、例の馬鹿馬鹿しい奇抜なトリックで知られている。現物を読んだことがない人でもトリックを説明すれば「ああ、あれか」と言うことが多い。
だが、有名だということは愛読されているということは別物だ。カトリックの大僧正という本職のせいか、それとも「ノックスの十戒」の見かけ上の教条的な雰囲気のせいか、どうもノックスにはとっつきにくくて堅苦しいというイメージがある。また、『陸橋殺人事件』を実際に読んでみるとなぜこれが名作なのかがよくわからないところもある。
そういうわけで、ノックスに手を伸ばそうという気を起こす人は少ないと思うが、『サイロの死体』に限っていえば、これはもう紛れもなく傑作なので是非とも読んで頂きたいと思う。いや、『陸橋殺人事件』も『まだ死んでいる』*4も今読み返せば面白いかもしれないが、なにぶんどちらも15年ほど前に一度読んだきりなので今ではすっかり内容を忘れてしまっていて、他人に薦められない。まあ、一度にいくつも薦めることもないだろうから、今は『サイロの死体』だけに留めておこう。
ただ、最初に書いたとおり、序盤から中盤にかけては無茶苦茶退屈な作品だ。その退屈さには理由があって、そこで後半の大仕掛けのための伏線を一所懸命に張っているからなのだが、そうはいっても読むのが辛いことに違いはない。テンポのいいラノベに慣れ親しんだ人にとっては苦行かもしれない。でも、世の中には堪え忍んでこそ得られる幸福というのもあるのだから、たまには冒険*5してみるのもいいのではないか。
と、さんざん煽ったところで今日はおしまい。『閘門の足跡 (新樹社ミステリー)』はどうしようかねぇ。

*1:これははてなキーワードになっているので説明は省略する。

*2:一覧表はこちら、書影入りはこちら、チェックリストはこちら。まだほかにもリストはあると思うが、これくらいリンクしておけば十分だろう。

*3:世界短編傑作集 3 (創元推理文庫 100-3)』に収録されている。どうでもいいが、本の巻数をダブって表記するのはどうにかならないものか。

*4:これはポケミスから出ているが、はまぞうにデータがなかったので、かわりに都筑道夫の『まだ死んでいる (光文社文庫)』を紹介しておく。

*5:しまった、スルーするつもりだったのに……。