当たり前が当たり前でない――『食戦記』のセンス・オブ・ワンダー
- 作者: 中村博文
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2009/03/12
- メディア: コミック
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お久しぶりです。そして、SF界ではもはや会うたびに「食戦記ごっこ」が行なわれる状態であり、今年のSF界流行語大賞は「かけうどんというものです!」で決まりであろうとさえ言われております。
そ、そうだったのか!
V林田氏が言及している「かけうどんというものです!」という台詞は『食戦記』1巻178ページに出てくるものだが、なるほどこのマンガを象徴する一言だと思われる。かけうどん*1という、現代日本人にとってはごく当たり前の料理を、別の文脈に置くことで、何か見知らぬものに触れたかのような奇妙な感覚に囚われる。この感覚を「センス・オブ・ワンダー」と言っていいものかどうか、SFにさほど通じているわけではないので断言はできないのだが、一方ではこれがセンス・オブ・ワンダーでないとすれば「センス・オブ・ワンダー」の名に値するような感覚など存在しないだろうとも思う。
ところで、これと同種の感覚を遥か昔に体験したことがある。すぐには思い出せず、もどかしい思いをしながら記憶の糸を手繰って、ようやくたどり着いた先がこれだった。
タイムマシンのつくり方 広瀬正・小説全集・6 (広瀬正・小説全集) (集英社文庫)
- 作者: 広瀬正
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2008/12/16
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もっとも、「もの」に出てくるもののほうは小説のオチになっており、最後の台詞でその正体が明かされることによって意外性を生むという効果があるので、うどんを作る過程をすべて絵で見せてしまう『食戦記』とは演出方法が異なる。従って、同工異曲とかネタのパクリというわけではないということを断っておく必要があるだろう。しばらく前に物議を醸した「生活維持省」と『イキガミ』の類似のような事例とは全く違う。
さて、『食戦記』にはもう一箇所きわめて印象的なシーンがある。それは1巻93ページ最上段に描かれたある図柄なのだが、「このシーンでこれを使うとは!」と感心してしまった。これから『食戦記』を読む人はぜひ注目していただきたい。