「うさぎの楽園」に住む侵略的外来種アナウサギ

今朝、毎日新聞を読んでいて、こんな記事を目にした。

かつて旧日本陸軍の毒ガス製造工場が築かれた広島県竹原市大久野島が、デジカメ持参の家族連れらでにぎわっている。周囲4キロの島は、約40年前に持ち込まれたウサギが約300羽にまで繁殖した「ウサギの楽園」。来年の「えと」を年賀状やブログに使おうと注目を集めたようで、瀬戸内の小島は、いつもと違った年の瀬を迎えている。【加藤小夜】

【略】

ウサギは71年、対岸の小学校で飼えなくなったものが放され、繁殖したとされる。島にある宿泊施設「休暇村大久野島」によると、かつて島を訪れるのは平和学習の修学旅行生や年配者が中心だった。しかし、ウサギの島として名が広まるにつれ、若い女性や家族連れらが増加。餌をねだる愛くるしい姿が人気となった。

この記事で気になったことは次の3点。

  1. 人間の手で飼育されていた動物を飼いきれなくなったからといって放逐してはいけないのに、その問題をスルーしてしまっていること。
  2. 野生動物にみだりにエサを与えるのはさまざまな問題を引き起こすもととなるのに、この記事ではその問題を匂わすどころか肯定的に紹介していること。
  3. 休暇村といえば、環境省の関係団体が運営しているのに、どうもうさぎへのエサやりに関与しているっぽいこと。

3番目の点については、記事の中では詳しく書かれていなかったが、休暇村大久野島のサイトをみると、『兎人(うさんちゅ)』プラン 2011魚拓)などという宿泊プランがあった。

2011年は兎年。大久野島では、訪れる人を癒してくれるかわいい『ウサギさん』が たくさん住んでいます。ウサギさんとのふれあいで素敵な思い出を作りましょう。

特典として『兎人グッズ』と『うさぎのごはん』をミニバケツ一杯プレゼントいたします。うさぎのごはんがあれば人気者間違いなしです。

※兎人(うさんちゅ)とは・・・うさぎを愛する人、ウサギをかわいがってくれる人のことです。

一方、

当法人は、国家公務員法等の一部を改正する法律(平成19 年法律第108 号。以下「改正法」という。)による改正後の国家公務員法(昭和22 年法律第120 号。以下「改正国公法」という。)第106 条の24 第1 項第4 号及び改正法附則第12 条並びに独立行政法人通則法(平成11 年法律第103 号)第54 条の2 第1 項において準用する改正国公法第106 条の24 第1 項第4 号及び改正法附則第10 条において準用する改正法附則第12 条、職員の退職管理に関する政令(平成20 年政令第389 号)第32 条及び附則第4 条、特定独立行政法人の役員の退職管理に関する政令(平成20 年政令第390 号)第18 条及び附則第3 条、職員の退職管理に関する内閣府令(平成20 年内閣府令第83 号)第9 条及び附則第3 条、並びに特定独立行政法人の役員の退職管理に関する内閣府令(平成20 年内閣府令第84 号)第8 条及び附則第3 条の諸規定に関し、「国と特に密接な関係がある」特例民法法人に該当しないので、その旨公表いたします。

という文書も見つけた。つまり、上記3で書いたことのうち、休暇村大久野島がうさぎへのエサやりに関与しているという点は正しかったが、環境省の関係団体が休暇村大久野島を運営しているというのは、予断に基づく全くの誤解だった。だって、「国と特に密接な関係がある」ということをきっぱりと否定しているのだから。
それはともかく、やっぱりうさぎへのエサやりはまずいよなぁ、と思いつつ、さらに調べてみると、こういうのが……。

気温が25度を超える日が多くなり、初夏を感じるようになりました。太陽の光を浴びてグングンと伸びていく芝生を、お腹をすかせたアナウサギたちが毎日せっせと食べています。

島では只今春に産まれた子ウサギたちの姿をあちこちで見かけることができます。ビジターセンター周辺でもたくさんの子ウサギたちが育ち、元気いっぱいに芝生を走り回っています。特に来島者の少ない静かな日には、子ウサギたちのかわいらしい姿をはじめ、野生化したアナウサギの行動をじっくりと観察することができますよ!

今回は、大久野島で野生化して暮らしているウサギたちのいろいろなしぐさをみなさんにご紹介いたします。

これは、正真正銘環境省の地方機関である中国四国地方環境事務所のサイト内の記事だ。さすがに、エサやりを奨励するような記述はないし、別のページでは、動物愛護の観点から飼育動物の放逐について暗に咎めるようにも読める*1記事もある。ただ、アナウサギ世界の侵略的外来種ワースト100*2に選ばれている種だというようなことは書かれていなかった。
外来種問題は一筋縄ではいかないところがあり、「よそから入ってくるものはとにかく阻止。既に入ってしまったものは問答無用で駆除」という単純な話で済むことではない。侵略的外来種であっても、いかなる生態系に対しても侵略的だということもない。大久野島はかつて毒ガスで環境が大いに破壊されてしまっており、いまさらアナウサギに目くじらを立てるほどのことはないのかもしれない。現地の状況もアナウサギの生態のこともろくに知らない素人があれこれ口出しするのは慎まなければ。
……と思って、いったんは布団をかぶって寝ようとしたのだけど、寝付けなかったので、もやもやする気分で書きたいことを書いてみました。識者の卓見を期待します。
最後に、直接は大久野島とも「うさぎの楽園」とも関係のない記事からの引用で締めくくりとします。

日本でも今ウサギをペットとして飼う人が増えてきました。

捨てウサギの数はまだそんなに多くないようですが、
日本でも野良ウサギ問題が出てくる日が来るかもしれません。

そんなことがないように、心から祈ります。

追記(2010/12/31)

朝日新聞にも似たような記事が出た。

内容には特に目新しい点がないので引用はしない。
来年の干支にちなんだ記事だから毒にも薬にもならない話題のつもりで選んだのだろうが、一面的な観点から書かれた記事は慢性的な毒のようなもので、じわじわと社会を蝕んでいく。
大手新聞社の新聞記事を読むと、紛争やもめ事に関する話題の場合には必ずといっていいほど両論併記しているのに、こういう話題だと呆れかえるほど単純な書きぶりでセンスのなさを晒すのは嘆かわしいことだと思う。

*1:が、はなからそういう問題意識を持って読むのでなければ気づかないかもしれない。

*2:公式には世界の外来侵入種ワースト100という訳語を用いるようだが、「外来侵入種」より「侵略的外来種」のほうが馴染みがあるように思うので、見出しではそちらを用いた。