静岡市には既にLRTが存在する

静岡市LRTの導入に関する意見を募集している。今月30日まで。
LRT導入の考え方についてと題されたPDF文書を読むとLRT導入がいいことずくめのように書かれている。そんなにいいものなら、意見募集なんかせずにさっさと導入すればいいだろうに……と嫌味を言ってみたくなる。実際にはLRTは長所もあれば短所もある乗り物なので、短所をどう克服するかという策を説明せずに長所だけ喧伝するのはフェアではない。
静岡市にはさほど土地勘があるわけではないが、よそ者の目でみてもこのLRT導入計画には疑問点というか不安点がいくつもある。政策的に導入するものだから、採算性についてはそれなりに手当てがなされるものとして、それ以外を思いつくまま3つ挙げてみよう。

  1. この計画ではおそらく路線は主に道路上に専用軌道の形で敷設されるのだと思われるが、車線数の減少による交通渋滞の緩和策としてはパークアンドライドとサイクルアンドライド*1くらいしか提示されていない。クルマから公共交通機関への転換を促すのに十分だろうか?
  2. 放射状のバス路線網をフィーダー化することでサービス向上になると書かれているが、所要時間や定時性より乗り換え回数の少なさを求める客層*2にとっては逆にサービス低下になるのではないか? 同一ホーム上での乗り換えで負担軽減することくらいは考えているだろうが、それでも中心部直通の利便性に比べると劣るだろう。
  3. LRT導入検討ルートは新静岡駅新清水駅のそれぞれから二方面に延びているので、静岡鉄道線との連携次第で利便性が大きく異なることなると思われるが、究極の連携策である車輌の乗り入れは視野に入っているのか、それとも乗り換えを前提とした構想なのかが不明だ。まあ、たぶん静鉄電車が道路上をごろごろと走るようなことは考えてはいないと思うが。

都市交通、とりわけ公共交通についてはさまざまな観点から論じることが可能だ。景観、環境、観光などなど。それらの中で何に重きを置くかによって、理想的な交通モードは異なりうる。ただ、私見では、どのような観点を重視するにしても、なるべく交通モードの種類を増やさないということを基本にすべきだと思う。コンピューターならレガシーフリーが有効だろうが、住民の生活に直結する公共交通は、少々時代遅れであっても少しずつ手直しして将来に繋げていくほうがいい。地下鉄、モノレール、新交通システム……と新しい技術や手段が開発されるたびにどんどん取り入れていくと、全体として繋ぎ目だらけの不細工な交通網ができあがってしまう。
そのような発想でLRTを考えると、もともと路面電車が走っている都市にそれと一体的に運用できるような新路線を敷設する場合には有効だが、静岡市の場合はそうではない。新しいシステムを導入するより既存の鉄道線やバスを大事にして、不便なところを手直しするほうが利便性向上の効果は大きいのではないだろうか。先にも書いたとおり、静岡市付近の地理にはさほど通じているわけではないので思いつきレベルの話しかできないが、たとえば東海道本線と静岡鉄道線の乗り換えを便利にするために草薙駅付近を整備するとか、バスが過密になる箇所はバス専用レーンを拡充するとか、いろいろ考えようはあると思う。パークアンドライドトランジットモールLRT導入とセットでないとできないわけでもないだろうし。
ところで、この文章の見出しについてちょっと説明。日本では「LRT」といえば、デザインに工夫を凝らした低床型路面電車というようなイメージで語られることが多いが、本来はもっと多様なものだ。

ライトレール(Light rail、軽量軌道)とは、北米の都市内および近郊で運行されるある種の軽量な旅客鉄道を指すために、米国の機関によって作られた言葉・概念である。トランジット(transit)を付記してライトレール交通:Light rail transit (LRT) とも呼ばれる。これに用いられる車両をライトレール車両(Light rail vehicle、LRV)と呼ぶ。北米以外では、ライトレールという言葉は必ずしも普通には通用すると言えないが、欧州等に近い性格・特徴を持つ都市鉄道が存在し、本稿ではこれらにも触れる(先駆者に当たるドイツのシュタットバーンなど)。

【略】

ライトレールの概念は、日本で言われるところの「次世代型」の路面電鉄とは無関係である。また併用軌道(車道と併用する軌道)の走行、低床車両かどうかも無関係である。ただし近年のLRVは、トラムトレイン及び併用軌道の走行を考慮して車両設計されているケースが多く、従って高速大量輸送対応の高規格型路面電車とも設計的に近いことがある。

全列車2両編成ワンマン運転となっている。平日はラッシュ時間帯5分間隔、土曜休日の終日と平日の昼間6-7分間隔の高頻度運転を行っており、昼間の普通列車新静岡 - 新清水間を21分で結んでいる。その運行形態や路線の特性から、欧米ではLRTとして紹介されることもある。

最後に何となくここにリンク。いろいろ思うところはあるのだけれど、まだ行ったことがないので今はノーコメント。
最後の最後にシートン俗物記自滅する地方シリーズにもリンクしておきます。

*1:「P&R」「C&R」という略語はやや不親切ではないかと思う。

*2:主に高齢者層を想定している。静岡ではどういう層の人が路線バスによく乗っているのかを知らないので、高齢者層を想定するのが的外れであればすみません。