守秘義務?

武雄市の新・図書館構想について日本図書館協会が見解を発表。出された論点はいずれも大事なものだと思う。公立である限り、今の法制度を前提にする限り正しい論点だとおもう。 しかし、図書館の機能、住民目線に徹するならば、武雄市の構想にはあまり問題はないのではないか。例えば我々は本屋で本を買い、クレジットカードを使う。どこで何を買って何を食べたか、個人情報を垂れ流して生きている。本人同意があれば問題ないのではないか。また、そもそも民間に委託したら民間人が誰が何を借りたか、知ることになるという考えたかも民間をバカにした発想だ。守秘義務があるだろう。守秘義務違反を恐れていたら業務委託できない。そもそも公務員が個人情報を漏えいさせることだってあるだろう。

よくわからないのだが、民間事業者には一般には守秘義務はないのでは? 確かに個人情報の保護に関する法律で規定された限りでの「個人情報」について、同法による「個人情報保護取扱事業者」に義務が課せられているが、ふつう「守秘義務」といえば、公務員や医師や弁護士などに課せられている、より広い範囲の秘密保持義務を指す。

守秘義務(しゅひぎむ)とは、一定の職業や職務に従事する者・従事した者に対して、法律の規定に基づいて特別に課せられた、「職務上知った秘密を守る」べき法律上の義務のことである。

もっとも、このような一般的な意味での「守秘義務」とは別に「契約上の守秘義務」というものもあって、そちらのほうを指して言っていることなのだとすればいちおう筋は通っているが、「契約上の守秘義務」に違反しても契約が打ち切られたり、違約金を求められたりすることはあっても、刑罰が科せられることはない*1ということには注意が必要だ。
公務員だろうがなかろうが情報を漏らすときには漏らすのだから、やれ守秘義務違反だ罰則だと言っても仕方のない場合もあり得る。だからこそ、そのような取り返しのつかない場合になる前にふだんから情報をどう取り扱うかをきっちり考えていかなければならないわけで、その意味では武雄市の新図書館構想は問題を洗い出すいい契機になっているのではないかと思う。

だがこの問題、本質的にはそもそも地方自治法の「公の施設」という規定そのものを廃止すすれば消える。「指定管理者制度による自由化」という発想自体が狭い。そんなのは各自治体が自由に決めればいいのだ。完全自由化したらいい、そうしたら住民判断、議会の判断という形で真剣な議論が起きる。市役所VS図書館協会の論争になるとしたら不毛だ。住民そのっちのけでつまらない制度論が巻き起こるのは本末転倒。

情報セキュリティを巡る問題は「公の施設」という規定とは別のところで論じるものであり、地方自治法を改正したからといって消えるような問題ではないのだが、おそらく「この問題」という文言で指しているのはそういうレベルの問題ではないのだろう。国が決めた法律に基づく規制を撤廃し住民や議会に任せるべきだ、という考え方には一理も二理もあるけれど、現在では「情報」は一つの地方自治体の領域内で完結するものではないので、この考え方がどこまで有効なのかはやや疑問。

*1:個人情報の保護に関する法律などの法令に違反している場合は除く。