「高レベル放射性廃棄物の発生量は火力発電に比べてはるかに少なく、細く、貯蔵、管理が可能」

【国際ビジネスマンの日本千思万考】世界が驚嘆「日本の原子力技術」を錆び付かせるな、「トイレなきマンション」は空論だ…人類に不可欠なエネルギー、急がれる原発再稼動(1/5ページ) - MSN産経westという記事を読んだ。いろいろ書いてあるのだが、次の記述を読んで思わず我が目を疑った。

脱原発論者たちの放射能廃棄物に対する過敏な考え方、特に「危険性や処理が難題である」というのは錯覚であり、まったく論拠がありません。実際は、使用済み燃料の処理は意外と容易で、まず高レベル放射性廃棄物の発生量は火力発電に比べてはるかに少なく、細く、貯蔵、管理が可能であることが知られております。しかも再処理・再利用することで量的に減少し保管期間も大幅に短縮可能で、技術的には数百年程度に短縮可能との見込みが立っているそうです。

「高レベル放射性廃棄物の発生量は火力発電に比べてはるかに少なく」という箇所を「原子力発電で生じる高レベル放射性廃棄物の発生量は火力発電で生じる高レベル放射性廃棄物の発生量に比べてはるかに少ない」というふうに素直に読むと話がおかしくなる。火力発電で高レベル放射性廃棄物が生じるわけがない*1からだ。ここで「高レベル放射性廃棄物」と対置されている語は「汚染ガス」なのだが、この段落ではその後は用いられておらず、次の段落にも出てこない。「汚染ガス」は次の小見出しの後でようやく登場する。非常に紛らわしい。読者の文章読解力に挑戦しているのだろうか?

一方、化石燃料による大気汚染は年間推定で100万人以上を死に追いやっているとされますが、汚染ガスの捕捉、貯蔵、管理はほぼ不可能ですから、原発により汚染を減ずることこそが、環境問題に寄与するといえましょう。原発事故の後でも世界は、あの地震に耐え(一部のみが津波被害に見舞われましたが)、死者も出さなかった日本の原発の安全耐久性を評価し、日本の先進的技術、再処理能力を保有する原発の完全平和利用に期待する諸国も多く、津波対策さえかなえば、原発再稼動を望んでいるそうです。

化石燃料による大気汚染が年間に100万人以上の死者を出している推計は、いったい誰がどのような方法で行ったものなのだろうか? ネットでざっと調べたところ、次のような記事を見つけた。

全米239の都市だけで、毎年64000人が化石燃料(特に石炭)による大気汚染で死亡すると推定されている。WHOの推定では、全世界で1年間に大気汚染によって死亡するのは300万人だから、火力発電による死者は全世界で数十万人と見込まれる。いま日本がすべての原発を止めて火力の運転を18%増やすとすると、これによって1年に採掘事故と大気汚染で1000人以上が死亡すると推定される。これが原発停止によって失われる生命の機会費用である。

「数十万人」と「100万人以上」では桁が違っている。まあ、数十万人の死者が出るだけでも深刻な問題であることにはなるのだけど。
さらに上の引用文中のリンク先をみると、

世界保健機関の報告書によると、大気汚染による死亡者数は年間300万人である。これは交通事故死(年間100万人)の3倍にあたる。医学誌『ランセット』が2000年に発表した調査結果は、フランス、オーストリア、スイスの大気汚染による死亡者数は3か国合計で年間4万人を超えるとしている。このうち、クルマの排気ガスが原因で死亡した人の割合は半数近くにのぼる。

さらに「世界保健機関の報告書」へと遡ってみると面白いのだろうが、日本語を理解できない可哀想な人がaだのbだのといった奇妙なしるしを組み合わせて無理矢理綴った模様*2を読み解くのは至難の業なのでやめておく。ただ、この文章は2002年に書かれたものらしいので、情報が古いことに注意しておく必要はあるだろう。
さて、大気汚染による死亡者数はさておき、「汚染ガスの捕捉、貯蔵、管理はほぼ不可能」というのは本当だろうか? 固体に比べると気体のほうが管理が難しいというのは一般論としては言えるだろうが、汚染ガスに対して人類は無為無策なのだろうか? いろいろ調べてみると、こんなPDF文書*3を見つけた。結構いろいろがんばっているのでは? また、大気汚染物質だけ分けて集めるのではなくて、温暖化ガスをまるごと集めて大陸棚の下へ封じ込めようという無茶な、もとい壮大なプロジェクトの話を聞いたこともある。んー、なんだか将来に禍根を残しそうな嫌な予感が……。
ともあれ、高レベル放射性廃棄物について「再処理・再利用することで量的に減少し保管期間も大幅に短縮可能」とか「技術的には数百年程度に短縮可能との見込み」と楽観的な見方をとるのなら、汚染ガスについて「ほぼ不可能」と言ってしまうのは、バランスを欠くのではないか。というか、「再処理・再利用」がプルサーマルのことを言っているとするなら、これは原発の再稼働が前提となっているのだから、現段階では空手形を切っていることになるのではないだろうか?
原発再稼働しても安心ですよ」
「でも高レベル放射性廃棄物が増えてやっかいになるでしょ?」
「いえいえ、プルサーマルでその問題は解決します。そのためにも原発再稼働を!」
「ええと、もしプルサーマルがうまくいかなかったら? 核のゴミがどんどん増えていくのでは?」
「大丈夫、大丈夫。日本の原子力技術を信じなさい!」
「……」
うーん、多重債務者がどんどん底なし沼に落ちていくような感じ。
いやまあ、原発にかわる代替エネルギーのあてなんかないんですけどね。風力、太陽光で万々歳、と思うほど楽天的ではないので。

*1:低レベル放射性廃棄物も火力発電で生じることはないのではないかと思うが、もし最新型の火力発電所では微量の放射性物質を使用していて云々、というような事情があると話がややこしくなるので、本文では高レベル放射性廃棄物に絞って述べた。

*2:平たくいえば「英文」。

*3:フォルダ階層をたどって、持続可能な開発に向けた国際環境協力というサイト内の文書であることは突き止めたが、どのコーナーにあるのかはわからなかった。ごめんなさい。