図書館と博物館と大阪高速鉄道

明日、大阪府知事になる予定の橋下弁護士が府の施設の大幅なリストラ策を打ち出したそうだ。はてなブックマークでも話題になっている*1。記事の見出しでも強調されているので、はてブコメントも図書館関係のものが目につく。
いくら大胆な改革を提唱する人でも、大阪府立図書館が不要だと言い切るのは無茶だろうし、民営化も難しい*2。「民営化してもある程度の補助金を出せばいいんじゃないの?」と思った人は図書館法第26条を参照されたい。
でもまあ、他の施設を売却したり廃止したりしておいて図書館だけ手つかずというわけにもいかないだろうから、指定管理者制度の導入くらいは考えるのじゃないかと思ったら、案の定、そういう話も持ち上がっているようだ。橋下氏、市場化テスト推進へ「検討を指示」――関経連など訪問 | 日経ネット関西版によれば、商工会議所の関係者が民間委託を提案したようだ。
ところで、この記事のことは、ここで知ったのだが、

ニュースが時間的に前後しましたが、つまり、商工会議所が提案した図書館の民営化は、たった一日で阻却された、というわけですね。

というまとめにはやや疑問がある。商工会議所関係者の提案する「民間委託」が指定管理者制度の導入のことを指しているのか、それとも何か別の方法*3を念頭においているのかはわからないが、図書館を民間に売却するという話ではなくて、府立図書館として残したままで運営に民間事業者が関与するという話なのだろうと思う。それだと、讀賣新聞の記事で橋下氏が言っていることと抵触しないので、「却下」または「阻却」されたとは言い切れないのではないか*4
さて、図書館は存続するとして、博物館はどうなるのだろうか? 「図書館以外は不要」なら、当然府立博物館は全部廃止か民営化するということになる。入館料収入でペイしている博物館なんかほとんどない*5から、民間に売却するにしても引き取り手が現れるかどうかはわからない。もうちょっと関西経済に勢いのある時代だったら、どこかの企業が財団を作って運営を引き継いでくれたのかもしれないが。
そうすると、民営化して存続するより、すっぱり廃止して跡地を売却するというシナリオのほうが現実的ではないかと思う。図書館に比べれば博物館のほうが優先度は低いから仕方がないといえば仕方がないのかもしれない*6が、せっかく蒐集した博物資料が散逸してしまうのはもったいない。そういえば、近つ飛鳥博物館は一度は行こうと思いながら、まだ果たせていない。
そもそも論に立ち返ってみれば、同じ「大阪府施設」といっても、図書館や博物館は大阪府知事ではなく大阪府教育委員会の所管*7なのだから、廃止するかどうかを決める権限教育委員会にある。ただ、ややこしいことに、図書館や博物館の予算に関する権限は知事が持っているので、実質的に施設の生殺与奪権を握っていることになる。もともと、教育委員会制度には、その時々の民意によって選ばれた知事が急激な改革を行うことを防止するという意味合いがあったはずなのだが……というような話を始めるときりがないので話題転換。
さて、讀賣新聞の記事では府の施設のほかに府の出資法人の見直し方針についても言及されている。その中で、特に大阪高速鉄道の名が挙げられているのが気になった。大阪高速鉄道といっても「はて、そんな鉄道あったっけ?」という人のほうが多いだろうが、これは大阪モノレールのことだ。モノレールはたいていどこでも赤字だけど、世界最長の大阪モノレール*8なんかは桁が違うんだろうなぁ*9、と思った。でも、これ民営化してやっていけるのかね?
大阪府出資法人の中にはほかにも鉄道会社がある。今年3月に部分開業する、おおさか東線*10保有する大阪外環状鉄道株式会社*11だ。これから先、放出*12から新大阪までの予定区間はどうなるのだろう?
いろいろ疑問の種は尽きないが、府の施設にしても、指定出資法人にしても、今すぐ全部廃止したり民営化したりすると決まったわけではない。今後の動向を見守りたい。
うだうだ書いているうちに、そろそろ日付が変わる。新知事の誕生だ。

追記(2008/02/06)

「そういえば、泉北高速鉄道大阪府が出資していたんじゃなかったっけ?」と思いつつ社名に「鉄道」が入らない大阪府都市開発株式会社だったので、見落としてしまっていたが、橋下徹大阪府知事、大阪高速鉄道と大阪外環状鉄道の廃止・売却を検討する - とれいん工房の汽車旅12ヵ月で補足されていた。

*1:なんかちょっと変な言い回しだが気にしないことにしよう。

*2:興味のある人はここから府立図書館の予算と利用人数のデータを調べて、入館料や貸出料をいくらに設定すればペイするのかを試算してみてほしい。本当は自分でやろうと思っていたのだが、途中でパソコンがフリーズしてしまい、やる気が失せた。

*3:地方自治制度については詳しくないのでどういう方法があるのかは知らない。

*4:と思ったら、はてなブックマークで同じことを指摘している人がいた。なるほど、「市場化=指定管理者制度導入」か。

*5:全くない、と言ってしまいたいが、ちゃんと調べたわけではないので断言は避けておく。

*6:ただし、個人的にはこのような見解には与しない。

*7:博物館は必ずしも教育委員会所管とは限らないが、文化財保護課のページに府立博物館及び府立近つ飛鳥風土記の丘の指定管理者との基本協定書・契約書についてというコーナーがあるのだから、たぶんこのふたつの博物館は教育委員会所管なのだろうと思う。違っていたらごめん。

*8:公式サイトのトップページのタイトルが大阪モノレール 大阪高速鉄道株式会社 6路線発、大阪空港行き。世界最長!になっているのがなんだか笑える。

*9:どの程度の赤字なのかはネットで簡単に調べられるが、面倒だし気が滅入るだけなので調べない。

*10:どうでもいいがこの路線名はどうにかならなかったものか。漢字の前にひらがながくると文中で区切りがわかりにくくなるから、本来は不要な読点を入れないと読みづらい。

*11:ほかに、JR東西線保有する関西高速鉄道株式会社にも大阪府が出資しているが、「図書館以外は不要」橋下氏、大阪府施設の廃止・売却検討−小さな政府(地方行政ですが)を目指す大阪府の新知事 - 風のまにまに(by ironsand)に掲げられている46の出資法人一覧表には入っていなかったので、「なんでだろう?」と思って調べてみると、大阪府の指定出資法人ではないようだ。関西高速鉄道 - Wikipediaによれば、創立時の資本金のうち大阪府が出資しているのは22.5%で、「25%以上」という数値基準を満たさない。讀賣新聞の記事では単に「出資法人」となっていて「指定」の2文字が欠落しているが、この程度は許容範囲として見逃すべきなのだろうか?

*12:「ほうしゅつ」ではなく「はなてん」と読んでください。