「ウィトゲンシュタイン」は英語読みか?

普通に読めば、「こういう風に、自国を英語読みされて気に食わない人間もいる。だからなるべく現地読みしよう!」と考えてしまうかもしれない。しかし、ここで注目すべきポイントは、現地読みではなく、「Parisはパリと呼ぶが、Veneziaをベニスと呼んでいる」という点がある。すなわち、何を英語読みするか、何を現地読みするかの基準が全く定まっていないのである。

最も分かりやすい例は「Deutschland」である。仮に現地読みを推奨するなら、この国は「ドイチュラント」と呼ばなければならない。しかし、私はいまだかつて、公共の場で「ドイチュラント」とカタカナ表記されているのを見たことがない。現地読み推奨派の方々も、「ドイツ語」「ドイツ料理」と呼んで、全く違和感を持たずに使えることだろう。他にも、「Descartes」は「デカルト」とフランス語読みなのに、「Wittgenstein」は「ウィトゲンシュタイン」と英語読みするなど、色々ある(総じて見ると、フランス語は現地読みされているケースが多いようだ)。

英語読みと現地語読みを対比させて論じるのなら、「Deutschland」に対応するのは「Germany」になるのではないかと思う。かの国の日本語表記として「ドイチュラント」が一般的ではなく、通常「ドイツ」という簡略形が用いられているという事実は、英語とは無関係ではないだろうか?
私見では、英語圏以外の国の人名や地名は日本語においてなるべく英語経由の読みを排して現地語に準拠したほうがいいが、既に定着した慣用を変えるのは大変なので、一気に事を進めようとせずにぼちぼち手直ししてけばいいと思う。
なお、現地語の音韻体系が日本語のそれと大幅に違っている場合に、かけ離れた発音になってしまうことは仕方がないと思う。現地語に忠実な発音が困難だからといって、英語経由の読みを正当化することにはならないのは言うまでもない。

追記

「ドイツ」は原語(ドイチュラント)、若しくはオランダ語の「Duits」が起源だといわれている。

「ドイツ」がオランダ語起源だという説があるとは知らなかった。