英知あふれる騎士 魔竜院光牙

AURA ~魔竜院光牙最後の闘い~ (ガガガ文庫)

AURA ~魔竜院光牙最後の闘い~ (ガガガ文庫)

よく考えれば魔竜院光牙こと佐藤一郎ドン・キホーテというよりサンチョ・パンサの役どころではないかという気もするが、細かいことを気にしても始まらない。そんなことより重要なのは、『AURA〜魔竜院光牙最後の闘い〜』が、近代小説の祖『ドン・キホーテ*1以来脈々と受け継がれたモチーフを受け継ぐ、由緒正しい正統派文学だということだ。
おお、いきなり大風呂敷を広げてしまった。
後が続かない。
少し出遅れてしまったせいで、『AURA』の感想文や書評があちこちで出回ってしまい、今さら似たようなことを書いても仕方がないから、少し目先を変えようと思っていたのだが、付け焼き刃の知識で小手先の技を弄してもこの小説の真髄に迫ることはできないわけで、さてどうしようかと思っていたところ、狂っているのは、世界かそれとも彼女の方か。田中ロミオが挑む、初の学園ラブコメ小説「AURA 〜魔竜院光牙最後の闘い〜」 - BAD_TRIP 特装版を読んで感心した*2。ああそうか、ヒロインの登場シーンを読んで何かに似ていると思ったけれど、『KANON』だったか。ああ、もう『KANON』発売から9年も経つのか。そりゃ忘れても仕方ないよなぁ。
人類が滅亡した1999年7の月……の前月6月には歴史に残る名ゲームが2本世に出た。うち1本は今挙げた『KANON』だ。伝説のゲーム『ONE』のスタッフの新レーベルへの移籍という「事件」もあり、宣伝・広告もうまかったようで、美少女ゲームファンの間で発売前からかなり話題になっていた。
KANON』に比べるともう1本のゲームのほうは、あまり前評判が高かったわけでもないように思う。メインヒロインは一人きりだし、特に有名なスタッフが参加しているわけでもなかった。そのゲームのタイトルは『加奈〜いもうと〜』という。
当時のことは今となってはもうあまりよく覚えていないが、『KANON』はメーカー通販で事前予約をして発売直後*3に入手した。確か6月中に全シナリオをクリアしたはず。一方、『加奈』のほうは、発売後しばらく経ってから初回限定版が売れ残っているのを日本橋のショップで見かけて何となく買ったまま、1ヶ月か2ヶ月くらい放置していたような気がする。どういうきっかけで買う気になったのか覚えていないくらいだから、たぶんさほど期待もしていなかったのだろう。
KANON』発売後しばらくの間は、ネットの美少女ゲームファン界隈ではその話題で持ちきりだったが、そのうち次第にじわじわと『加奈』に言及する人が増えてきた。最初は「『KANON』が好きな人が次にプレイするのにお薦め」という感じだったのが、そのうち「『KANON』より『加奈』のほうが凄い」と言い出す人も現れてきて、そんなに面白いのならちょっくら手をつけてみるか、と思うようになった。
初回プレイはもちろんバッドエンド。だが、どうしたことだろう、この魂を揺さぶられるような感覚は。しばらく放心状態に陥って立ち直るのに約1日かかった。
そして、この時、山田一という平凡すぎるほど平凡なシナリオライターの名前が深く脳裏に焼き付けられた*4のだった。その後、山田一がシナリオを担当した『星空ぷらねっと』と『家族計画』も買ったが、世紀の変わり目くらいを境に美少女ゲームへの関心がどんどん薄れていったため、未だにこの2作は放置プレイ状態だ。非常にもったいないことをしたものだと思うが、今となっては時間がもったいなくてゲームに手を出す余裕がない。
……ええと、『AURA』と全然関係のない話をしてしまったが、平凡すぎるほど平凡な名前繋がりで『AURA』の佐藤一郎と無関係ではないはずだ、と強引にまとめてしまおう。さらに佐藤繋がりで、佐藤ケイの『LAST KISS』が出た時に「『LAST KISS』は『加奈』のパクリだ」とボロクソに叩かれたことを思い出したので附記しておく。あの時、いちせ氏が『LAST KISS』を擁護して『加奈』より評価した*5のを見かけて慌てて書店に走っていったことを今でもよく覚えている。同時期に、強く『LAST KISS』を支持した人がもう一人いた*6のだが、その人は後にライトノベル作家としてデビューした。その人の代表作のサブヒロインの1人の口調が『AURA』のヒロインの口調に影響を与えたのだとすれば、因果は巡るよ巡るよ因果巡る因果の糸車ぐるーりぐるーりほらまた巡るという話になるのだけれど、いったい何を書いているのかわけがわらなくなってきたので、そろそろこの辺でおしまいにしたほうがさそうだ。

*1:人によっては『ロビンソン・クルーソー』を近代小説の祖と呼ぶこともある。

*2:もうひとつ感心した感想文は、これ。そういや確かにダーガーに似てる。

*3:本当は発売日に届くはずだったのだが、配送のトラブルで少し遅れた。

*4:ちなみに、同時期に同じ業界には同姓の山田桜丸というシナリオライターもいた。ネット上でのレビューを通じてその名前も記憶の片隅には残っているが、実際に山田桜丸がシナリオを担当したゲームをプレイしたことはない。

*5:好きなら、言っちゃえ!! 告白しちゃえ!! [2002年8月]の8/8付と8/9付の記事を参照。

*6:ただし、その人は『加奈』は未プレイだった。