ビルは何階建て以上から?

世界初の木造ビル: 坂茂の木造7階建てビル、チューリヒに誕生 - swissinfo.chという記事を読んだ。
木造ビルといえば、最近どこかで関連する話題を扱った本を読んだはず……。あ、そうそう『里山資本主義』だった*1

里山資本主義』でCLTという新建材のことを紹介している。強度・耐火性能に優れた便利な木材だそうで、衰退激しい日本林業にとっても希望の光のようだ*2。最近、「直交集成板」という訳語が作られたので、今後はこちらの名称のほうが主流になるかもしれない。

閑話休題
世界初の木造ビル: 坂茂の木造7階建てビル、チューリヒに誕生 - swissinfo.chにも関連記事の木のぬくもり: スイスで木造建築の人気再燃 - swissinfo.chにも「CLT」という語は使われていないので、タメディア新本社ビルで用いられた建材が実際のところなんだったのかはよくわからないのだが、それはさておき、このビルが「世界初の木造ビル」というのは本当だろうか? 木造の高層建築物はそれ以前からあったのでは?
……というわけで、見出しに掲げた問いにようやく到達した。

英語buildingや、これをカタカナにした外来語ビルヂングやビルディング(ビルはその省略形)には、必ずしも学術的なまたは法律上の明確な定義は無い。buildingを辞書で引くと「屋根と壁を伴う構造物」といった定義があり、この語義では建築基準法にいう建築物に近い。他方、ビルディングの定義では、建築物でも構造が鉄筋コンクリート構造などであるものに限り、高さもある程度、高いものに限っている辞書が複数見られる。

「構造が鉄筋コンクリート構造などであるものに限」るのは、たとえば法隆寺五重塔などの伝統的な木造建築物を「ビル」の適用範囲から排除するためだろうが、あまり厳密に考えると「木造ビル」という語自体が概念矛盾だということになってしまうので、直交集成板が日本でも普及してきたら「ビル」の定義を見直さなければならないだろう。
明治に入って西洋から新しい建築技法や建材が導入されたことに伴い「ビルヂング」という語が生まれた。平屋の西洋館も相当建てられたはずだが、それらは「ビルヂング」とは呼ばれなかった。また個人の邸宅も「ビルヂング」とは呼ばれなかった。英語の「building」の意味が縮められ、主に商業系・事務所系の用途の多層階の建物に限定されるようになった。
では、どの程度の高さがあれば「ビル」と呼ばれるのか? 2階建てで「ビル」と称する建物は見たことがないが、3階建のものなら具体例をいくつか挙げることができる。高層ビルが増えた現代の感覚では「3階建てのビル」というのはやや大げさな感じがするが、「4階建て以上でなければビルではない!」と言ってしまうのもどうかと思う。まあ3階建て以上としておくのが妥当なところか。
では、どうして2階建ての建物は「ビル」ではないのか? たぶん、江戸時代以前の日本建築にも2階建てのものがあったからだろう。3階建ての木造建築物もないことはないが、かなり珍しかったはず。明治の日本人は、「建物」の既成概念を打ち破るものとして舶来の「ビルヂング」を捉えたはずなので、2階建てではインパクトが弱かったのかもしれない。
さて、現代日本人にとって「木造ビル」は何階建て以上のものを指すのか? 単なる「ビル」なら3階建て以上だとしても、その基準を機械的に「木造ビル」に適用していいのだろうか? まだ馴染みの薄い「木造ビル」という語には、明治の「ビルヂング」と同じく、既成概念を打ち破る目新しさがあるのではないか? だとすれば、4階建て以上、いや、5階建て以上と言いたい気がする。まあ、法令用語ではないから、あまり厳密な定義を求める必要はないのだが。
チューリヒのタメディア新本社ビルは7階建てだそうなので、もちろん「木造ビル」の名に値するものだ。これが本当に世界初の木造ビルなのかどうかはわからないが、画期的な建築物であるのは確かなのだろう。だが、上には上があるもので、スウェーデンでは34階建てのビルが計画されているという。

なんだか旧約聖書の……いや、これは失敬。21世紀は夢世紀、科学はますます進歩し、人類はますます豊かに、そして幸せになるのですね!

ああ、早く21世紀にならないだろうか。待ち遠しくて仕方がない。なんとか1999年の「恐怖の大王」を回避しなければ。
……などと、どうでもいい話に脱線して収拾がつかなくなったので、これでおしまい。

*1:以下、手許に本がない状態で書いているので、何か間違いやピント外れがあるかもしれない。

*2:もっとも、「『里山資本主義』を読んだ限りでは」という留保つき。探してみると、こんな意見もありました。あと、全然別レベルの話だが、CLTにはシックハウス問題はないのだろうかという疑問がふと浮かんだ。